第1巻
文明国と呼ばれる国の中で、日本ほど政治家のイメージが悪い国は他にないでしょう。恐らく総ての政治家が金権、
汚職のイメージと重なるからでしょうが、実際にはそうでない国会議員の方が、はるかに多いのも事実です。ことさら
政治家のマイナス面ばかりをあけぐらうのではなく、真摯な一面も過不足なく公平に描いてゆきたいと思っています。
第2巻
国会議員のすべき仕事は次の4点だと思います。国防、外交、教育、そして経済政策と極端に言えばこれ以外の
ことは地方議員の仕事だと言えましょう。しかし選挙に於いてはこの4点を掲げていたら落選するというのが現実です。
残念ながら地元利益を唱えなければ当選出来ないということは、我々選ぶ側にもかなり問題があるのではないでしょ
うか。
第3巻
日本社会は今、歴史上始まって以来の政治家不信におちいっています。永田町の上空には暗雲がたちこめ、国会
議事堂がまるで魑魅魍魎の棲む伏魔殿のようにも思えてきます。しかし国民が永田町に対して、こういうイメージを
持つことは決していいことではありません。一刻も早くこの暗雲を払拭してくれる政治家が登場することを願って、一足
先に「加治隆介」を永田町に送り込みました。今後の活躍を期待して下さい。
第4巻
『加治隆介の議』第4巻の準備をしている最中に、金丸信前副総裁逮捕のニュースが飛び込んできました。真面目な
国会議員を主人公にして描いている私にとって、こういう政治家の為に、日本の政治全体が腐敗しているように思われ
るのは甚だ残念です。これを機に、加治隆介のような政治家がどんどん現れてくれることを切に願います。
第5巻
政治改革は今後取り組まなければならない重要課題のひとつではありますが、飽くまでも政治家のあり方を問うことで
あって、日本の命運を決定するような重要課題ではありません。大切なことは今後日本が世界とどう関わってゆくか、
それによって日本の経済をどうするのか、この2点を処理出来る政治家を我々国民が選ぶことだと思います。
第6巻
訪米した細川首相が、クリントン大統領と合意できず、物別れのまま帰国する、という”事件”が起きました。これは、米
国が日本のことを「言いなりになる弟分」として見るのをやめた、ということでしょう。日米の対立に関する国際世論も米
国支持が増えているようですし、「日本も、わがままばかり言ってられないぞ」というのが現在の私の心境です。
(1994年2月)
第7巻
日本は現在連立政権というシステムをとっておりますが、このシステムがいかに脆弱なものかということは誰の目にも
明らかです。穏健なる多党制といっても、長年反目しあった者が手を握りあっているわけですから、野合とみられてもし
ようがないでしょう。強いリーダーシップを持つ人間が現れない限り、政局は出口を求めて迷走し続けるしかないのです。
(1994年2月)
第8巻
政治に優先順位があるとすれば、第一に挙げられるのはやはり平和(防衛)でしょう。次に経済活動が来て、次に民主
主義ということになるでしょうか。日本は経済活動と民主主義は達成していても、その前段階である平和(防衛)に対する
構えがとても希薄です。政治家も国民も、日本は決して安全地帯に存在しているのではないということを自覚しなければ
ならないのではないでしょうか。
第9巻
日本人の最も欠落している意識のひとつに国防(危機管理)があります。長年、日米安保条約の下に守られてきた平和
の為に、国防感覚がマヒして、平和を当然のように受けとめ、ひとたび自衛隊という言葉を口にするだけで軍国主義者の
レッテルを貼りたがる日本の風潮は何とも残念です。自衛隊は戦争を防いで平和を維持するために存在するのですから。
第10巻
政界再編という旋風が永田町に吹き渡り、様々なグループの合従連衡がくり返されてきた。その結果出来あがったのが
現政権であるが、自社さ連立という極めて脆弱な基盤の上に立つ政権であるために、今後更に組み合わせが変わって
ゆくだろう。社会主義というイデオロギーが崩壊したために、明確な対立軸がなくなって、国民は何を基準に選んでいいの
かわかりにくくなった。強い理念を堂々と言える政党の出現を望む。
第11巻
米ソの対立がなくなった冷戦後の世界で今一番問われていることは、世界の安全を誰が守るかと言うことでしょう。東側
の大国がいなくなって、残念ながら世界のいたるところで紛争が増えてきました。この時点で、もっとも頼りにすべき組織
が国連の安全保障理事会でしょう。ひとつの紛争を、世界中の国々が力を合わせて押さえようという集団安全保障の時
代になってきたということですね。日本も、もっと国連外交に力を注ぐべきだと思います。
第12巻
極東アジアが不穏な空気に包まれています。北朝鮮の核疑惑、南進、中国の核実験、台湾海峡の緊張等、日本は決し
て安全な地域に位置しているとは言えません。ここにきて日米安保条約の重要性を再確認する必要が出て来たと言える
でしょう。沖縄県民が基地を負担と感じているのなら、積極的に他県に移転する施策を考えるべきです。日米安保条約は
日本の防衛にとどまらず、現時点ではアジア全体の平和と安定の為に必要不可欠なものなのですから。
第13巻
今、国民は政治家に対して不信感を持っています。特にお金が絡むスキャンダルに対しては敏感に反応して、責任を追
及します。それはそれで当然のことですが、日本人はあまりにも政治家の価値を”クリーンさ”だけで判断しすぎてはいな
いでしょうか。今回の巻で、加治隆介は、国民の多数の意思で辞職に追い込まれます。つまり有能な政治家を政界から
失うわけですから、これは国益の大きな損失と言えるでしょう。クリーンだけで当選した政治家が増えても、日本はよくな
りません。
第14巻
韓国と日本は隣国同士でありながら、ある側面では良好な関係とは言えません。これはもちろん過去の歴史に於ける度
重なる日本の侵略行為に起因するものなのでしょうが、その歴史を認識した上で、一刻も早く両国の関係を修復したいと
心から願います。この作品を描くにあたって板門店その他を取材しましたが、その際お答えにくい質問にまで丁重に対応
して下さった南北統一関係の省庁の方々、ジャーナリスト、そして出版社の方々には深く御礼申し上げます。カムサハム
ニダ。 弘兼憲史
第15巻
政治家は選挙に負ければ”ただの人”になります。従って日頃の政治活動と平行して、選挙対策としての地元涵養をしな
ければなりません。ここが辛いところで、国の為にがんばってばかりいると落選するということになります。加治隆介のよう
に国政一本で活動出来る政治家は極めて希で、残念ながら国政そっちのけで地方を向いている議員が極めて多いという
のが現実です。ここは、何とかバランスをとってやっていただくしかありませんね。
第16巻
自衛隊を蛇蝎の如く嫌う人達がいます。このことばを口にするだけで、軍国主義者のレッテルを貼りたがる人もいます。そ
の人達は自衛隊がなくなり、日本から米軍基地がなくなれば平和が来ると信じている人達です。しかし現実は全くその逆
で、戦後50年日本が平和でいられたのは、自衛隊、米軍、そして日米安保条約のおかげです。平和を希求するなら、抑
止力としての軍隊が必要なのだということを、我々日本人は強く認識すべきです。 <弘兼憲史>
第17巻
日本の自衛隊の軍事力は、量は少ないけど能力的には想像以上に大きいのです。アジアでは勿論最強だし、世界でも
2番目か3番目に位置づけられるといわれています。この軍事力を保有する日本は、世界に対して軍隊を持っていないと
広言しています。自衛隊はあるけど軍隊はないという詭弁を使っています。これを他の国は何と思うでしょうか。もういい加
減こういうごまかしはやめようではありませんか。日本は軍隊を保有する、但し侵略の為には使わないということを憲法に
明記すべきでしょう。 <弘兼憲史>
第18巻
プルトニウムを積んだ運搬船がテロリストに乗っ取られるという設定で、この巻の話は進みます。一見、奇想天外な設定
に思われますが、実は現実に十分起こりうることなのです。実際は「あかつき丸」という船が運搬にあたっていますが、航
路を公開しないのはテロ対策だし、船の中には乗っ取りに備えて海上保安庁の保安官が乗りこんでいます。日本国民は
長い間、平和というぬるま湯にどっぷりつかっていたために、危機管理に対する関心が高くありません。世界は想像以上
に危険地帯が広がっていることを認識する必要があると思います。 <弘兼憲史>
第19巻
少し前の一連の証券スキャンダルで、政界財界双方に数名の死者が出てしまいました。コトの成り行きは別にして、亡く
なった方個人にとっては、大きな流れの犠牲になったということで大変不幸なことでした。政治とカネは、古今東西切って
も切れない関係ですが、それはひとえに政治=権力という考えがあるからで、その意識を政治家のみならず、我々国民も
変えない限り、この種のスキャンダルは永久に無くならないでしょう。
第20巻
連載を始めて約8年間、この巻をもって「加治隆介の議」は完結致します。思えばこの8年間、日本は政界、財界ともに激
震の時代であったと言えるでしょう。小選挙区制の導入、自民党一党支配の終焉、自社連立政権、日本社会党の消滅、
PKOによる自衛隊海外派遣、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)問題、バブルの崩壊と経済不況等、枚挙にいとまがあ
りません。作者としてはネタ切れすることもなく、とてもいい時に、政治漫画を描くことが出来たと思います。加治隆介の主
張には、私個人の私見がかなりはいっておりますが、問題提起と捉えて読んでいただければ幸いです。 <弘兼憲史>
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