『ランビアンの事蹟
ベトナム・中部少数民族の古伝承』
ラムトゥエンティーン 著、 本多 守 訳
てらいんく、2000年発行
(前回紹介) (第2回紹介)
前回紹介の通り、本書は避暑地で有名なダラットがあるベトナム中南部のラムドン省に住む少数民族の古伝承40話をまとめたものである。そのうち17話と最も多くの話を収めているマー族の伝承分を前回紹介したが、残りは、ラムドン省でベト(キン)族を除く少数民族で最も人口の多いコホー族の各支族(16話)と、チュルー族(4話)、ムノン族(3話)の民話となっている。
コホー族、ムノン族は、マー族同様、オーストロアジア語族(南亜語族)モン・クメール語族に属し、特に隣接して居住しあうマー族とコホー族は、初対面の者同士の会話も可能なほど、非常に多くの共通語彙を持つ。コホー族は主にラムドン省に居住し、一部がビントゥアン省、ドンナーイ省、ソンベー省の山間部に居住し、多くの地方支族に分かれている。本書ではコホー族のうち、最大支族のコホー・スレ支族、チル支族、ラーット支族、ノップ支族の伝承が掲載されている。
一方、チュルー族は、ベトナム中南部に住むエデ族、ラグライ族、チャム族、ジャーライ族と同様、オーストロネシア語族(南島語族)に属し、かつて中部沿海部で生活していたチャム族の子孫であるとの古伝を持っている。
これらの話の中にも、やはり強大で影響力のあったチャム族との長年の歴史的関係を反映したストーリーが盛り込まれている。『ノップの孤児とチャム王』(コホー族ノップ支族)では、ノップ支族の孤児と病気や山の魔物に悩むチャム族の王との話であり、『神牛』(コホー族スレ支族)では、チャム族が甕・鉦や布・塩などと少数民族が持つ牛や豚などとの交換を持ちかけにやってくる場面が登場する。
また、『賢い兎』『なぜ水牛は犂を引かねばならないか』『虎と亀』『人にだまされた虎』等に見られるように動物を人格化した寓話的意味をもつ話も多く虎は残忍で粗暴と扱われる一方、西原の各民族がいつも馴らし育て訓練し、生産活動に従事していた象は、素朴で正直な動物として重視されている。また「黄色の山羊男」「金色の魚の若者」「蛇の夫」「オランウータンの子」等と、動物などが話の途中で人間に変身するストーリーも多いのであるが、もとは人間で他のいろんな服や皮を着ていて、その変身の仕方は、着ていた「山羊の服」「魚の服」などを脱ぐというシンプルなものだ。それらの服を一時脱いで畑仕事などをしたりするのであるが、服を燃やされたり捨てられてしまうと戻れなくなってしまう。いろんな「かぶり物」を想像するとユーモラスな姿が浮かんでしまうが、動物だけではなく「瓢箪の若者」というのさえあるくらいだ。
ランビアンの名の由来ともなったとされるカー・ランとハ・ビアン夫婦の民話『ランビアン山、象山、ダー・ニム川の故事』(コホー族チル支族)は、旱魃のために天に雨を降らしてもらうよう訴えに行こうとする夫、夫を探しに出る妻の強い愛、2人に感動し憐れんだ象など、非常に短い話ながらなかなか感動的な話だ。この話以外にも労働・暮らし・戦いを反映した話がいろいろと紹介され、当地の人々の昔の生活や思考・行動をうかがい知ることができる。民話に頻繁に登場する生活道具や作物などに注意を払って各民話を読んでみるのもまたおもしろいのではなかろうか?私の場合、鉦や竹笛、酒甕、瓢箪、トウモロコシなどに加え、唐辛子の記述が非常に多いことが気になった。
また同書では、民話の内容理解を助けるだけでなく、各民族の習性などに関心を持たせてくれる訳者による注が豊富に用意されている。特に稲作儀礼、結婚、葬式と死後の世界などについての注は詳細だ。ダラットの観光地紹介以外、ほとんど知られていないベトナム中南部の山岳高原地域への理解と認識が、各少数民族の歴史や暮らしへの関心を通じて深まるきっかけを作ってくれる書籍といえよう。