メコン圏を対象とする

    第8回 解説書・調査研究書など

 

                    

  

 現代蠟風土記

        

    今川幸雄 著、

    KDDクリエィティブ1997年11月発行

    ISBN4−906372−40−6

 

   

 

 

 本書は、カンボジアに長年関わってきた元カンボジア日本大使・今川幸雄氏によるカンボジアの解説書である。今川幸雄氏といえば、1991年10月のパリ協定締結の翌月からプノンペンに日本大使として赴任し、その後の国連による暫定統治、1993年の総選挙の施行、新生「カンボジア王国」の誕生と、カンボジア和平の過程にカンボジアで深く関わってこられた。更に1996年1月帰国、同年4月外務省を退官後も、1997年7月のカンボジア政変時、マスコミなどによく登場され、カンボジアにそれほど関心を持っておられなかった方にも御馴染みの方ではなかろうか?

 

 一般には、アンコール王朝時代と、クメールルージュ政権誕生前からの悲劇の現代史以外にほとんど関心をもたれて来なかったカンボジアの歴史を、先史時代からわかりやすく紹介している。アンコール遺跡についても各遺跡の個別の見所を細かく案内している。ただせっかくの説明も写真がもっとあれば尚良かったのにとも思うが、カンボジア及びカンボジア人に関する概説に加え、アンコール遺跡を訪ねる人の案内にも役立つ1冊の本をという出版社の要請があったということであれば、無理からぬことで、この点については、他のアンコール遺跡の写真集などと併用されてはと思う。

 

 こうしたカンボジアの概説やアンコール遺跡の案内などもなかなか有用であるが、より興味深いのは、著者がどうしてカンボジアとカンボジア国民を愛し、カンボジアにのめり込んでしまったのかということで、プロローグで多少この点について触れている。外務省研修所で研修を受けていた時に在外研修希望国にカンボジアを挙げた理由、 1957年4月研修生として在カンボジア大使館在勤を命じられ、初めてのカンボジアに対する第一印象などなど、大変興味深い話が綴られているが、もっといろんなエピソードも盛り込んだ詳細な「自分史」の発行を期待したいものだ。また、今川氏というと、カンボジアのイメージが強いが、メコン圏地域でも他にラオス大使館、ベトナム大使館、タイ大使館で勤務されており、メコン圏地域全体に対しても大変深い理解と関心を持っておられるとお聞きしている。

 

 本書の書名の由縁となった蠟風土記は、中世のカンボジアについて中国人旅行者・周達観が13世紀末に著したものであるが、著者はこの書も上手く引用しながら、現代カンボジアを概説している。尚、巻末には、”カンボジアとアンコールをもっとよく知るために”と題して、ラーマヤナ物語蠟風土記、カンボジア(王国)年表が付されている。

 

              目 次

 

 プロローグ

    外交官生活の出発点であり終着点であったカンボジア

        生涯最良の日/カンボジアの第一印象/

        シハヌーク殿下(現国王陛下)との親交/

        プノンペン法科大学やアンコール遺跡の想い出など/

        カンボジアの暗くて悲惨な時代/カンボジア和平への関与/

        最近のカンボジアの武力衝突と内政の変動/

        カンボジアの平和と安定への真摯な祈念/

 

 Part 1.

    カンボジアおよびカンボジア人

      1.国土と地勢 

        メコン河流域と大湖を囲む中央平野/森林と山岳地帯/

        海岸沿いの狭い平野/首都プノンペン/      

     2.天候と歳時記

        自然と季節/暦と年中行事/

     3.住民と習俗

        カンボジア人の特徴と性格/カンボジア人の衣・食・住/

        カンボジア人の家庭生活/カンボジア人以外の住民/

     4.宗教と芸術

        カンボジアの宗教/カンボジアの芸術/音楽と舞踊/

     5.カンボジアの言語

        カンボジア語とはどのような言語か/カンボジアにおける国語の普及/

     6.経済と産業

        経済的背景/分野別産業の概観/

     7.カンボジアの歴史

        先史時代/古代ー1世紀〜8世紀/中世/

        近世ー1434年〜1844年/近代ー1845年〜1953年/

     8.現代のカンボジア

        ノロドム・シハヌーク国王の即位と日本軍による「仏印処理」/

        「独立十字軍運動」による独立の達成/

        サンクム・レアストル・ニヨムの中立外交と王制社会主義政策/

        ロン・ノル・クーデターからクメール・ルージュ虐殺政権まで/

        ベトナム軍の侵攻とヘン・サムリン・ベトナム型社会主義政権/

        カンボジア和平の萌芽/

        カンボジア和平パリ国際会議とパリ協定の成立/

        国連による暫定統治と総選挙の施行/

        新生「カンボジア王国」の誕生/

 

 Part 2.

    探訪アンコール遺跡

      アンコール・ワット

        濠、塀と参道/第一回廊/第一回廊と第二回廊の間/

        第二回廊/中央本殿/      

     アンコール・トム

        南大門/バイヨン/バプーオン寺院/象のテラス/

        ヴィミヤン・アーカス(ピミヤナカス)/癩王のテラス/

        プラサット・スウル・プラット/

     小巡回路の遺跡

        タ・カエウ(タ・ケオ)/タ・プロム/バンティヤイ・クデイ/

        スラ・スラン/プラサット・クラヴアン/

     大巡回路の遺跡

        プリヤ・カン/ニャック・ポアン/東メボン/プレ・ループ/

     バンティヤイ・スレイ

       

   

 カンボジアとアンコールをもっと良く知るために

     ラーマヤナ物語

     蠟風土記

     カンボジア(王国)年表

 

 エピローグ

    「現代カンボジア(蠟)風土記」の執筆を終えて

    

 

     著者略歴

 

今川 幸雄(いまがわ・ゆきお)

 

1932年、東京都生まれ

早稲田大学政経学部卒業。

1956年、外務省入省。

8年間カンボジア在勤。フランス大使館、

ラオス大使館、ベトナム(ハノイ)大使館

(臨時代理大使)、アルジェリア大使館(参事官)、マルセイユ(総領事)、フランス大使館(公使)、タイ大使館(公使)を

経て、1996年まで4年間、カンボジア大使。関東学園大学法学部教授、上智大学客員教授、日本クメール学研究会会長、現在に至る(93年6月から96年1月まで、アンコール遺跡保存修復国際調整委員会共同議長)。

著書に『アンコールの遺跡とカンボジアの歴史』(めこん刊)、『カンボジア民族の文化遺産 アンコールの遺跡』(ばんたか刊)など、カンボジアの政治、経済、文化に関する論文多数。

 

 (本書著者略歴紹介より。発刊当時)

 

  エピローグ一部抜粋

 

 

著者が出版社からの本書の執筆依頼を受諾するに至った理由:

 

@外務省の第先輩である元調査部長特命全権公使 故松宮順氏が、1940年(昭和15年)5月、中世のカンボジアについて中国人旅行者・周達観が13世紀末に著した『蠟風土記』の全文に漢文の返り点を付け、非常に流暢な

 

A外務省の先輩である山川寿氏が、戦後外務省に移籍する前の満鉄東亜調査局在職時に執筆した『仏印の住民と習俗』(1942年)および『印度支那民族誌』(1943年)のような名著に少しでも近づいた民族誌を書いて見たいと考えたから