著者略歴
(本書紹介文より。2003年発刊当時)
高橋宏明
(たかはし・ひろあき)
1963年、横浜市生まれ。
中央大学大学院修士課程修了。
プノンペン国立芸術大学講師、在カンボジア日本大使館専門調査員等を経て、現在、上智大学アジア文化研究所研究員。
専攻=カンボジア地域研究、近現代史
訳書=『母なるメコン、その豊かさを蝕む開発』(リスベス・スルイター著、共訳、メコン、1999年)
著書=『アンコール遺跡と社会文化発展』(共著、連合出版、2001年)、『カンボジアの復興・開発』(共著、アジア経済研究所、2001年)
動物(本書での訳注の一部)
■水牛(クロバイ)
カンボジア語で「ポホ・クロバイ」(水牛の腹)といえば「食いしん坊」の意であり、「アー・クロバイ」(水牛野郎)とは「バカ野郎、愚か者」を意味する。水牛は、よく食べる愚鈍な動物と見られているのである。民話の中の水牛も、のろまで愚かな動物のイメージが強い。
■ウサギ(トンサーイ)
ウサギは、すばやい動作の持主で、人間の世界(村)と自然界(森)の双方の空間を、自由にかつ軽快に行き来する。ちなみに、カンボジア語で、「チュー・トンサーイ」(ウサギの病気)といえば「仮病をつかう」の意味
■オオカミ(チョチョーク)
現在のカンボジアにオオカミは生存していない。すでに絶滅したと言われている。しかし、民話には頻繁に登場する。民話の世界のオオカミは、鋭い牙を持ち、足も速いので、一見すると、森の強者に見える。ところが、しばしば自分よりも身体の小さな弱者にやり込められる存在として描かれる。身体的には強者の条件を備えているのだが、知恵が足りず、思慮に欠ける。
■カメ(オンダエク)
カメは、身体が小さく、足も遅い。動作が鈍いことから、のろまなイメージを持たれている。しかし、民話におけるカメは、時として、したたかな存在として登場する。そうした性格が反映されたからなのであろうか、カンボジア語でもあまり良い意味はない。「モアット・オンダエク」(カメの口)は「全く意味のない、何の役にもたたない」、「メー・オンダエク」(カメの主人)は「やり手婆(売春等の斡旋をする女)」、「マダーイ・オンダエク」(カメの母親)は「子供を産みっぱなしで面倒を見ない母親」を、それぞれ表す。
■シギ(クヴァエク)
水辺に住む。長いくちばしと脚を持つ。民話にはあまり登場しない。
■カラス(クアエク)
カラスは人間にとって、身近な鳥であると同時に、不吉な鳥でもある。村と森の境界に住み、ウサギと同様に、「トリックスター」(いたずら者)の役割を担う事が多い。
■ニシキヘビ(ポッ・トラン)
民話では、ニシキヘビの毒は猛毒とされ、人の足跡を舐めただけで毒による被害を受けるとされていた。ヘビは、その姿から狡猾で陰湿なイメージが付けられている。
■トラ(クラー)
民話の世界において、トラは森の王者である。森では権力者であり、強者の象徴として描かれる。カンボジア語で「チューン・クラー」(トラに与える)といえば、「権力のある人には機嫌をとっておけ」を意味する。一方で、トラは野蛮な動物として見られている。「チエニュチェム・クラー」(トラを飼う、トラを育てる)とは、「恩知らずに恩を施す」という意味になる。