メコン圏を舞台とする小説   第9回   

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 著者紹介

劉 岸麗(りゅう・がんれい) 

  

1954年、北京生まれ

北京大学東方語言文学部卒業中華青年連合会日本課勤務を経て、85年、東京大学総合文化研究科研究生となる。87年、東京都立大学人文学部大学院中国文学学科入学、89年、

修士課程修了。現在は、東海大学文学部非常勤講師として現代中国文化を担当。97年、処女作『風雲北京』で第4回蓮如賞受賞。

 (本書著者紹介より・99年発刊当時)

 

       

関連テーマ

 

 

●中国での知識青年の「上山下郷」(農村下放)の歴史

 

●西双版納と少数民族

 

●雲南での天然ゴム生産事情

 

中老国道、中緬国道、国道1号、国道3号、滇越鉄道(昆明ーベトナム)

怒江、紅江、瀾滄江、哀牢山、把辺山

元江、成昆鉄道、

 

知識青年(知青)、「待業青年」「はだしの医者」、自由市場、解甲帰田(除隊帰農)

 

林彪事件、文化大革命、四人組

周恩来総理、葉剣英元帥、鄧小平

小説『飄』(風と共に去りぬ)

「跑馬(パオマー)」(夢精)

「禁房事」(性交を控える)

ストーリー展開時代

 

1969年~1979年、

1998年

 

ストーリー展開場所

 

・雲南省

  昆明、シーサンパンナ、景洪市

  瑞麗、翡翠村、

北京、上海、成都など

 

  

登場人物たち

 

・李媚(上海出身の少女)

・張小桃(上海出身の少女)

・葉楚楚(北京出身の少女)

・王(雲南農場の作業班長)

・イナン(ワ族の青年)

・阿朗(「はだしの医者」)

・大勝(復員兵)

・宗中隊長

・諸南星(成都出身の少年)

・劉天成(北京出身の少年)

・洪長征

・蒋勇山連隊長

・王建国(黒龍江省建設兵団)

           など

  

     

  

   

            「雲南、赤い大地」 

        

    著者:劉 岸麗、1999年、河出書房新社、

 

 





12歳で憧れの紅衛兵となった少女を主人公に、文化大革命の恐るべき凄まじさと、それに翻弄される人間の悲しみと強さを描いた『風雲北京』(河出書房新社、第4回蓮如賞受賞)の作者が、今回は、知識青年の農村下放を題材に、新作を発表した。

 

 「上山下郷」(若い者を農村や辺境の建設に参加させる)と呼ばれた農村下放は、1950年代の中頃から始まり、文化大革命のときにピークを迎え、1970年代の末頃まで続いた新中国の重要政策であった。同書では、著者自身の実体験も踏まえ、都会の中・高校生が、国策の下、雲南・西双版納の寂しい土地に送り込まれるところから話が始まる。

 

 慣れない不便な土地での生活は大変ながらも、「知識青年が農村に赴き、貧しい農民から再教育を受けることは大変重要である」という毛沢東主席の言葉を素直に信じた多くの若者が、その後どのような人生を「辺境」で味わっていくかが描かれる。中央政府の呼びかけや政策狙いとは裏腹に、都会からの知識青年を受け入れた貧しい地域の生産建設兵団や国営農場では、知識青年を迫害する事件が多発し、案件の多くが強姦であったことは、日本では余り知られていないのではなかろうか?スローガンで飾られた異論を許さない国策が、青春の理想と情熱に燃える若者を対象にしたとき、その誤り・失敗のもたらす影響は、より悲惨である。

 

 本書は、著者自身が同級生と一緒に、雲南・シーサンパンナの西南部にある孟龍と呼ばれる谷間に「辺境建設」で下放した年である1969年からストーリーが展開し、実際に起こった事件である1978年末~1979年初にかけての雲南・シーサンパンナの知識青年たちの嘆願書・ストライキ・中央の責任者との直接対話を求めた北上団の行動・昆明会議(1979年2月)までを主として記している。時代の呼びかけに応じ、夢に燃えていた誇り高い都会の少年少女たちは、「辺境」で辛い目にあった上に、政府や政治、時代や社会に愚弄され裏切られ見捨てられていった。こうした悲劇を生んだ知識青年の農村下放も、1979年から帰郷が始まったが、全員がすぐに帰郷できたわけでなく、また長年にわたっての「下放」で、時代や社会の中で自分の居場所が見つけれずその後も不幸な人生を歩まざるをえなかった人が少なくなかったようだ。

 

 本書に登場する主たる人物の家庭環境や人生にも、当時の中国の政治・社会状況が映し出されており、当時の中国の若き者達の思想・行動には「政治の時代」にあった激しさがある。その上、現代中国が辿ってきた烈しい政治権力闘争のあおりを一般国民も受ける「政治性」が強い思想・社会状況に、やや重苦しさを感じるが、それだけに母が子を心配する心情や若者同士の恋愛や友情、少年達のいたずらや冒険心、亜熱帯風景や少数民族の青年の潔さなどにはほっとさせられる。

 

 こうした激動の中国現代史の一面を知るだけでなく、西双版納の亜熱帯風景とタイ族・ワ族等の少数民族、雲南での天然ゴム生産事情、中国・ビルマ国境の様子、中国知識青年のビルマ共産党ゲリラ加入など、同書にはメコン圏に関心を持つ人にとり、興味深い事象もたくさん散りばめられている。尚、本書の巻末には、12ページにわたり、中国での知識青年の「上山下郷」(農村下放)の歴史が1954年から1980年までにわたってまとめられている。