メコン圏を舞台とする小説   第13回   

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 著者

大藪春彦(おおやぶ・はるひこ) 

  

関連テーマ

 

●南ベトナム民族解放戦線(NLF)

●ベトナム共和国のジェム政権

●シハヌークの中立政策

ストーリー展開時代

 

・1966年

 

ストーリー展開場所

 

・東京、横浜

 横田基地/府中/立川/中目黒

 青山/調布/下目黒/初台

 世田谷赤堤/有楽町/赤坂

 渋谷南平台

・タイ(バンコク、トンブリ)

・南ベトナム(サイゴン、ダラット)

 

主な登場人物たち

 

・水野洋治(主人公)

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・ハロルド・ギリガン(米国空軍中尉)

・フレッド・ハドリー(米軍大尉)

・マーチン(米軍中尉)

・沢田光夫(バー”クメール”経営)

・松永(沢田の顧問弁護士)

・中里江理子(”クメール”のマダム)

・浜崎(”クメール”のチーフバーテン)

・中田(”クメール”のセカンドバーテン)

・服部英子(沢田の愛人)

・グエン長州(東南貿易営業部社員)

・大庭(長州の借家の家主)

・木村(有楽町・山陽ビルの管理人)

・林(東南貿易社長)

・古沢(東南貿易営業部長)

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・ウィリアムズ少佐

 O.S.I横田基地内特別麻薬捜査部長

・ジョーンズ麻薬捜査部次長

・厚生省薬務課関東信越地区麻薬取締官 竹内一課長/三宅二課長/

平井取締官/吉川取締官/味村麻薬取締官事務所長/沢野取締官/鎌田取締官)

・高山警部(警視庁捜査一課)

・多田検事(地検の麻薬係)

・島村課長(警視庁防犯部保安課)

・小川刑事(警視庁防犯部保安課)

・津田課長(警視庁防犯部防犯課)

・磯部(内閣総理大臣官房内閣調査室    海外情報部第3課長)

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・アンリ・カーン(トンブリにあるバー”メイホワ”のバーテン)

・リーザ川渕(女子学生TVタレント)

・サリー(バー”メイホワ”の女)

・サラシン(バンコクの薬品問屋経営)

・ポニー(サラシンの秘書)

・パンブン(サラシンの手下)

・ファン・ゲアン

・チャン(用心棒)

・チェン・フート(サイゴンのフランス料理店経営)

・シモーヌ(グエン長州の女)

・スチーヴ(OSIサイゴン支局員)

・フィン・ソアン(ダラット守備隊副隊長)

・ゴー・グエン(サイゴン商工会議所議長)

   

     

 

   

            「ベトナム秘密指令」 

        

    大藪春彦 著、 1990年10月

    TOKUMA NOVELS (徳間書店)

    ISBN4-19-102048-X

      

 


 

 ハードボイルドでおなじみの大藪春彦氏によるタイ・ベトナムを舞台としたハードアクション小説。時は、ベトナム共和国(南ベトナム)では、解放民族戦線の勢力が拡大し、初代共和国大統領であったゴ=ディン=ジェムがクーデターにより殺害された(1963年11月)後も、米国の軍事援助が強まり、アメリカ軍のベトナムへの本格的直接軍事介入が始まっていった1966年頃という設定だ。

 

 時代についての明記はないものの、サイゴンの北西約30キロの大空軍基地であるビエンホア基地がべトコンの攻撃で大被害をこうむったことがある(1964年11月)とあり、更に主人公の日本人が3年前にも南ベトナムに飛んでいるがその時はゴ=ディン=ジェムがまだ政権を握っていたと書いてあるからだ。

 

 ベトナム戦線の前哨基地タイで勤務している米国空軍中尉が、バンコクのチャオプラヤー川の左岸側・トンブリのバーのバーテンから木彫りの仏像を預かったが、その中に麻薬が隠されていたことが、一時休暇先の日本で発覚。ここから物語が始まり、在日米軍を巻き込んだ日本への大規模な麻薬密輸事件につながっていく。

 

 O.S.I.(米軍太平洋空軍特別犯罪調査部)の特別麻薬捜査官や厚生省の麻薬取締官たちが捜査に動き、麻薬が隠された木彫りの仏像の受取役であった東京・青山のバー”クメール”の経営者・沢田光夫を麻薬取締官事務所に連行し取調べを開始する。しかし犯人グループに事務所を襲撃され、沢田が殺されてしまう。地検、警視庁、麻薬取締官事務所の3者の特別合同捜査本部が設置されるが、犯人グループの手口は巧妙を極め、日本国内における捜査は暗礁に乗り上げてしまう。

 

 ここではじめて主人公・水野洋治が登場する。この主人公は、30代半ばの、浅黒くハンサムで、大藪ハードボイルドの世界らしく、贅肉一つない鋭い顔立ちで、野性味あふれ、しかもタイ語、ベトナム語、広東語など何ヶ国語も操れる男だ。外語大学の東南アジア語学科を卒業後、外務省に入るが、上役と喧嘩して退職。今はフリーの社会派カメラマンである。しかし彼には隠されたもう一つの顔があった。日本政府の東南アジア担当秘密調査官で、諜報活動や破壊活動に従事していた。

 

 暗礁に乗り上げてしまった捜査を、バンコクから手繰っていくべく、水野洋治に秘密調査の依頼が為され、水野洋治は、単身バンコクの暗黒街に乗り込むが、そこにはいろんな危険が彼を待ち受けていた。何とかバンコクのボスを追いつめると、本当の黒幕は南ベトナムが拠点であり、タイ、カンボジア、ラオス、日本をつないだ大掛かりな組織グループであることがわかる。ようやく、本のタイトルにつけられている”ベトナム”が事件の要の場所として登場し、ストーリー展開舞台も南ベトナムに移動する。

 

 いろんな勢力が渦巻いていた解放前の南ベトナムで、更に猥雑としていた華僑街ショロンが描かれると、それこそいろんなマフィアやスパイの跋扈は、さもありなんという気分になってくる。最後は避暑地で有名なダラットで、「敵」の日本を含む広範囲な国際的活動の全貌が明らかにされる。解放戦線を展開するベトコンへの兵器供給が、本書の重大な鍵となっている。ベトコンにつながる地域ネットワークとしてラオスやカンボジア一部地域(シアヌークビル港など)もわずかではあるが、絡んでいる。

 

 大藪作品だけあって、派手なアクション場面がたくさん登場し、単身で危険な場面に飛びこむ主人公は、絶体絶命のピンチに度々陥りるのであるが、なぜか冷静に危険をすり抜けてしまう。銃の描写も多いので、銃について詳しい人には、また別の楽しみがあるだろう。