メコン圏を舞台とする小説   第17回   

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 著者

 谷 恒生

 (たに・こうせい) 

 

1945年9月18日東京生まれ。鳥羽商船高校卒。一等航海士として世界の海をめぐり、1977年、海洋冒険小説「喜望峰」「マラッカ海峡」でデビュー。

以後、冒険小説、伝奇バイオレンス小説の秀作を多数発表し、独自の世界を拓く。主な作品に「北の怒涛」「魍魎伝説」など。

 

 (本書紹介文より。本書発刊当時)

  

関連テーマ

 

●錫の産地とプーケット

●ピーピー島とバンガー湾
 007の「黄金銃をもつ男」のロケで一躍有名になる

●プーケットタウン

パオクチャ川、萬金酒家

 

◆地中海クラブ(クラブメッド)

 (株)地中海クラブの日本語サイト

 

プーケットのバカンス村

    3 kata Road, Karon, A.Muang

    Phuket 83100 THAILAND

 

 (本書にも、地中海クラブの発祥や創業、業務発展や経営者の経営手腕、着想・着眼や地中海クラブのシステムなどについての説明紹介あり)

・バカンス村・・・クラブメッドでいうリゾートで、様々な施設が揃っている

・バカンス村の村長(Chef de Village)

・G.O(ジー・オー)・・・フランスのGentil  Organisateur)で、クラブメッドのスタッフ

ストーリー展開時代

 

・明記無し(1990年と推定)

 

推定理由

 

少し前に日本人の新婚さんがバンコクでタクシーの悪質運転手に撲殺されたと言うショッキングな事件が起きている(1989年3月21日)

 

本書の事件のモデルとなった実在の事件(杉並の一人暮らし老女殺人事件)が、世間の話題になったのは、1990年1月10日神奈川県藤野町でトランクから年バイ女性の腐乱死体が発見されてから。杉並区のアパート経営者■■■■さん(82)が行方不明になったのは、1989年9月末。

 

ストーリー展開場所

 

・タイ(プーケット島、ピーピー島)

・東京・青山

 

主な登場人物たち

 

・霧島夕子(女子大生、

  実家が八王子。父親が都庁勤め、母親が小学校の先生)

・立花ゆかり(女子大生、

  ミステリー同好会のメンバー。静岡の小さな洋品屋の娘)

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・吉村喬司(ジャパントラベルサーヴィス海外課長東南アジア担当)

・川北信也(レジャー施設関係の仕事)

・立花ハルミ(新宿の高級クラブ勤務)

・立野ミユキ(貿易関係の仕事)

・布川直樹(地上げ屋)

・徳崎三雄(御徒町に店を出している宝石商で、華僑)

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・田所雪乃(武蔵野市に住む老婦人)

・須藤健一(小劇団の俳優)

・村井正(須藤の仲間)

・金沢タキ子(須藤の仲間)

・津田恵(須藤の仲間)

・2人の不動産ブローカー

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・地中海クラブバカンス村総支配人

・ブンミ警部(タイ・ツーリストポリス)

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・長谷部源蔵

・日高凶平

・ター警部(プーケットの警察官)

   

     

  

   

            「タイ・プーケットツアー殺人事件」 

        

     谷 恒生 著、勁文社(ケイブンシャノベルス)

    1991年2月ISBN4-7669-1338-8

   

  

 

  


谷恒生氏は、海洋冒険小説『喜望峰』、『マラッカ海峡』で1977年作家デビューし、『バンコク楽宮ホテル』(1981年11月、講談社より単行本刊行、その後1990年徳間文庫より文庫本刊行)や『灼熱の戦場』などのタイを舞台とする作品を著しているが、本書も題名どおり、タイ・プーケット島を舞台とした谷恒生氏による書き下ろし長編トラベルミステリー。谷恒生氏は、海洋冒険小説から伝奇バイオレンス小説、架空戦記などと、様々なジャンルを手がけているが、本書も表紙カバーや本のタイトルからも推察できる通り、著者の従前の作風とはかなり異なると思える新境地に挑んだ作品。

 

 霧島夕子と立花ゆかりはイマドキの元気印の東都女子大の文学部英文科の学生で、英文学のゼミでずっと一緒だった仲良しの2人。立花ゆかりは、バイト先のキャバクラで知り合った大手旅行代理店の東南アジア担当の吉村喬司から、タイ・プーケット島の地中海クラブへの8日間のツアー旅行を無料プレゼントされた。女のともだちと2人で行く事と、キャンセル者の穴うめ要員として、キャンセル者の名前、22~23歳のO・L、安岡京子、山村文子の名を使うことが条件だった。

 

 不審を感じつつも、霧島夕子を誘い2人でプーケットツアーに参加し、旅を満喫しようとした矢先のこと、到着の翌朝ビーチの防風林のヤシ並木で吉村が殺された。しかも、彼は旅行代理店の人間ではなかった。続いて地中海クラブのオプショナルツアーで遊びに行ったピーピー島では地上げ屋の布川直樹が溺死し、プーケットタウンの川辺でも小太りの中年男、徳崎三雄が殺害される。軽い気分でリゾートしたはずの女子大生が、彼女たち自身も危険な目に遇うことになる連続殺人事件の裏には、卑劣な人間達による巧妙に仕組まれた罠があった。

 

 世界中のリゾート地に、様々なレジャー施設が整ったバカンス村をもつ地中海クラブ(Club Med K.K.の日本語HP参照)のタイ・プーケット島でのバカンス村が本書での主たる舞台で、バカンス村の仕組みなどが犯罪トリックの一部に組み込まれている。熱帯リゾートでの旅、食事やショッピング、マリンスポーツ、ナイトライフ、オプーケットツアーといった場面・情景に、イマドキのキャピキャピギャルを核に、 同じ機内のエグゼクティブシートに乗り合わせプーケットで何かと一緒になる人物たちは、皆一癖も二癖もあってなんだか怪しい人たちばかり。いろんな危険な目に遇ったり連続殺人事件がおこったりしながらも謎解きの楽しみがあるゆえに、旅で知り合う長身で端正な好青年・川北信也との恋の展開も盛り込まれてと、なにやらよくある2時間もののトラベルサスペンスのテレビ番組を見ているような気分になってくる。

 

 観光リゾートとは違うプーケットの裏の貌として観光業者・リゾート企業と錫業者との対立確執、麻薬・宝石・オンナの集散地としてや偽札、ドラッグなどと、さまざまな犯罪組織や闇の業界人がうごめいていることが暗示され、更に日本で実際に起こった事件をヒントにした資産家の老女失踪にまつわる怪事件が絡む。本書フィクションでの怪事件としては、ある男女のグループが、武蔵野市に一人暮らしの資産家老女のさびしさにつけこんで世話をしながら信用を得た後、土地を売却させてその土地代金約12億円を奪いとり、老女を始末し自らも行方をくらませ、土地売買に関わった不動産ブローカーも行方がわからなくなったという事件というもの。ご記憶の方もおられると思うが、これは1990年「杉並の一人暮らし資産家老女殺し」として世間を驚かせた実在事件がモデルだ。82歳になる一人暮らしのアパート経営の老女が失踪していたが、失踪直前に老女の土地が不自然な形で売却され、これに関係したとみられる複数の男女が所在不明。彼らは老女の身の回りの世話をし、温泉旅行に一緒に行くなどして信用を得ていたもので、更に、警察による捜査開始の直後、不動産ブローカーも姿を消したというまさに怪事件だった。

 

 主人公となる人物も、かなり翔んでる女子大生で、好奇心が旺盛でスリリングなこと大好きで、見かけちょっと軽薄そうという設定で、”ワンレンの髪””ミツグちゃん”、”三高の美青年”、”花のO・L、オヤジギャル””ウッソー””超ラッキー”"腹立つ、腹立つ、ハラタツノリィ”などと本書刊行時にはやっていたと思われる言葉が本書でもとびかい、甘いマスクの男に惚れてしまう。が、一等航海士で海の男出身である著者は、航海士として世界中の港をまわり、その後川崎港の船舶鑑定人(サーベアー)と言う職業に就き、どぶくさい川崎港周辺で社会や人間を見る眼を鍛えてきたいまどきはやらない男くささに溢れる男、日高凶平を登場させて、軽佻浮薄な社会の風潮や人間観・男性観に対する著者自身の異論を訴えているようだ。

 

               本書の目次

 

       第1章   超ラッキー

       第2章   楽しきフルコース

       第3章   恋の予感と殺人者

       第4章   疑惑の渦

       第5章   死神の正体