メコン圏を舞台とする小説  第25回

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 著者

 祐未 みらの

  (ゆみ・みらの)

 

1962年、東京生まれ。

早稲田大学社会科学部卒。

証券会社勤務、アメリカ留学、旅行代理店のシンガポール及び香港駐在員を経て、1993年、『緋の風 -スカーレット・ウィンド』で、第11回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞。

著書に『異花受粉』『苦い血』など。

 

(単行本著者紹介。発行当時)

 

関連テーマ

 

●インパール戦

●モゴック産ルビー

●マンダレー王朝

ストーリー展開時代

 

1998年

 (プロローグは1996年4月)

ストーリー展開場所

 

・東京

  松涛(河野家)

  杉並区荻窪(中田家)

  新宿ゴールデン街(原田の酒場)

  麹町(河野浩之の別宅)

  府中(老人ホーム松風苑)、四谷(三枝建設)

  中目黒(河野浩之・玲子の家)渋谷、銀座、八幡山、四谷、四谷三丁目、新宿御苑、代官山

  靖国通り、日本橋、浜町秋葉原、電気街、万世橋、外苑西通り、東中野、甲州街道山手通り、早稲田通り、成増飯倉片町、立川、環八通り、人見通り、久我山、東八道路、野崎八幡、富士見大橋、野川公園、高田馬場、青梅街道、新中野青山通り

 

埼玉県桶川(浜田老人の家)

・長崎

 

・アメリカ

  ニューヨーク、ハワイ

イギリス

  ロンドン

 

<回想シーンでのビルマ地名>

  ガラダン河、カレイワ、メイミョウ、マンダレー、614高地、チンドウィン河、アキャブ、ポーク、カラダン、ミンタミ河、タメンガン、モーク、クデクノー、レータン、テグノパール、パレル・タムパレル、モーレ、ユー河、

 

主な登場人物たち

 

・中田亮(20歳、早大法学部の学生)

・白河富貴子(中田亮の祖母、78歳)

・中田史織(中田亮の妹、15歳)

・中田鈴代(中田亮の母)

・白河佳昭(故人、中田亮の父)

・白河佳之介(故人、中田亮の祖父)

・中田晃(鈴代の再婚相手、教師)

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・河野孝夫

  (三枝建設社長、長東産業社長)

・河野優子(孝夫の妻)

・河野浩之(孝夫の一人息子、26歳)

・杉下(孝夫の秘書、38歳独身元は村田という政治家の秘書)

・三枝修一郎(優子の兄。埼玉県の大学でマルクス経済学を教える)

・珠恵(河野家で10余年の家政婦)

・村内部長(三枝建設)

・三枝平吉(故人、優子の父親)

・真奈美(修一郎の元妻)

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・成田玲子(結婚後、河野玲子)

・ハツ子(玲子の祖母)

・成田健吉(故人、玲子の祖父)

・成田健介(故人、玲子の父)

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・坂西重治(東京・墨田区在住、57歳

 池袋のファッションヘルスの支配人)

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・クロフォード夫人

  (52歳、グリースン男爵夫人秘書)

・エドワード・グリースン男爵

・コリン(グリースン男爵の長男)

・シモーヌ

  (グリースン男爵夫人、33歳)

・ジュリー(グリースン家の使用人)

・キャサリン

 マンスフィールド伯爵夫人(48歳)

・マンスフィールド伯爵(故人)

・レジーナ(コリンの最初の妻で、

  ナイトの称号をもつ富豪の娘)

・レィディー・アン(コリンの婚約者)

・エレン(コリンの産みの母)

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・原田(酒場「フランドル」のマスター)

・緑川暁子(29歳)

・鈴木(NY在住のカメラマン)

・早苗

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・マイク・スペイシー
(リンダ・グリーン
の元ヘアースタイリスト)

・ボブ・シェリダン

  (リンダ・グリーンの「マンダレーの夕日」という記事の著者)

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・ゆかり(坂西重治の妻。父親は川本組組長。原田の昔の恋人)

・桂木登志男(祐天寺で産婦人科の病院を経営)

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・浜田(白河佳之介の軍隊時代の部下以前は東京の蒲田で、自動車部品を作る小さな町工場を経営)

・真由子(浜田の孫)

・福田一等兵

  (故人。白河少尉の最後を、浜田と一緒に見取った男。マラリアで死亡)

・平塚五郎太

  (故人。福田一等兵と幼年兵時代からの友人)

・秋葉(山形商事社員)

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・エヴァ・キャンベル(トップモデル)

・アギアッド(中東の産油国王子)

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・高木麻里

  (GIと日本人女性とのハーフ)

・ウィリアム・オニール

  (高木麻里の父親)

・カレン(オニールの今の妻)

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・佐智子(バー「向日葵」の女主人)

・林田小百合

 (「ウィンダミア」のオーナーの義妹

  「ウィンダミア2」でレジを預かる)

・島村よし子(故人、河野孝夫の叔母)

・小百合(「ウィンダミア2」)

・夏江

・松波

・松波サエ

・松波ひで(サエの義理の母)

・松波美代(サエの義理の姉)

・小寺秀治(「ソドム」の経営者)

・南青山のクラブに勤める智子というホステス

・キク子(長崎のスナック経営者)

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・関口毅(故人、元一流商社の東海物産勤務)

・関口毅夫人

・赤城美佐江

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・佐藤善之

  (建設大臣。長崎県諫早市出身)

・三田(佐藤の秘書)

・外村次郎(民放の元花形キャスター)

・大松建設の社長夫妻

・和田末男

  (横浜国際短期大学英文科教授)

 

   

          

     「マンダレーの夕日」 

      The Sunset of Mandalay by Yumi Milano  

 

     祐未 みらの 著

    角川書店、1999年5月

    ISBN4-04-873164-5

  

     

 


 

  本書は第11回サントリーミステリー大賞読者賞受賞作家による、書下ろし1300枚、単行本2段組で約500ページにも及ぶ大長編。留学や海外勤務経験のある著者のこれまでの作品同様、この作品も登場人物リストをみればわかるように国際色の強い作品でもあるが、同時にインパール戦の解説を含めた日本軍のビルマ戦線の状況や終戦後の昭和20年代から30年代にかけての昔の日本がストーリー背景に描かれてもいる。登場人物が非常に多いためか、最初は人物関係を理解するのに多少大変かもしれないが、読み進むにつれ、それぞれの人物の像が明確になってきて、やがてそれぞれの人物のからみ具合がわかりだすと、壮大なスケールで描かれる人間群像のドラマにぐんぐんと引き込まれる。「マンダレーの夕日」と本書のタイトルがついてはいるものの、これはルビーのネックレスの名前で、現代の東京が主たるストーリー展開場所となっている。

 

 本書のタイトルとなっている「マンダレーの夕日」とは、所有者に富と名声をもたらすといわれる伝説のルビーで、1965年、当時のトップモデルであったエヴァ・キャンベルが、恋人の中東の産油国の王子アギアッドからルビーの原石をもらい、このルビーを中央に据えた豪華なネックレスが作られ、アギアッド王子によって「マンダレーの夕日」と名づけられる。名前の由来は、中央に燦然と輝くルビーが、ビルマ第2の都市マンダレーから北北東に150キロほど行った、モゴックで産出されたものであった。そして、この「マンダレーの夕日」は、アカデミー賞女優、アラブの石油王、日本の土地成金、イギリスの男爵夫人など様々な人の手を渡り歩いてきていたが、このルビーに秘められたある野望と愛憎、復讐が、この壮大な人間ドラマを作っている。

 

 第1章のタイトルは「1998年3月14日」で、この日に本書の主な登場人物が各地各所の場面で現われる。まず、この日は東京都内の一流ホテルで建設大臣を主賓に呼び、350人を招待した一部上場の三枝建設社長・河野孝夫と妻・優子との間の一人息子・河野浩之の結婚披露宴となっている。河野浩之の結婚相手は貧しい家庭に生れ横浜のデパートで働いていた娘・成田玲子であるが、この結婚には河野孝夫が画する誰も知らないある復讐の意味が込められていた。そしてこの結婚式には、三枝建設がイギリスに所有するカントリークラブの名誉理事であるグリースン男爵の若き夫人シモーヌが、秘書のクロフォード夫人の手配で、「マンダレーの夕日」のネックレスをつけて参加した。

 

 結婚披露宴後、河野孝夫は、同日早朝、東京・日野市の多摩川の河川敷で、河野孝夫の昔の知人で、ファッションヘルスの支配人をしていた坂西重治が刺殺されているのが発見されたことを新聞で知り驚く。また同じ日、今は東京郊外の老人ホームに入っている白川富貴子が大学生の孫・中田亮に、少尉としてインパール戦に参加し29歳でビルマで戦死した祖父の遺品についての秘密を打ち明ける。その秘密とは、終戦後、祖父の腹心の部下だった浜田という人が遺骨と一緒に届けてくれた遺品は、ビルマ産の最高級のルビーで、小さな仏像の中に隠したまま仏壇に置いていたが、いつかわからぬもかなり昔、気付いていたら仏像の中のルビーが消えていたというものだった。更に、同じ日、イギリスでは、グリースン男爵夫人の秘書であるクロフォード夫人の家をグリースン男爵の長男コリンが訪ね、クロフォード夫人についての興味深い過去をある男から教えてもらったと語る。

 

 本書の登場人物で、緑川暁子と原田の二人も強い存在感を出している。原田は、もともと中堅の出版社で男性週刊誌の記者として働いていたが、緑川暁子のために離婚し、また後に会社を辞めることになり、今では文筆業をしながら新宿ゴールデン街で酒場のマスターを務める42歳。原田の恋人が、29歳の緑川暁子。彼女は大学卒業後、準大手の証券会社に就職。客の原田と親しくなり、既婚の原田は離婚するも、2人の関係は一旦破綻し緑川暁子はアメリカの大学に留学するが、やがてドラッグにはまりヤク漬けでぼろぼろとなる。このシーンがプロローグで描かれている。原田のおかげでドラッグから卒業でき日本に戻るが、今は、日本に来た外国人相手のコールガールをしていた。

 

 まず坂西重治の死に河野孝夫が関っていると思い込んだ重治の女房のゆかりから、重治の死について調べて欲しいと原田が頼まれ、緑川暁子が調査を始める一方、中田亮も祖父の消失した遺品の行方を調べだすことで、ストーリーは第2章から新たに動き出す。純朴爽やかで感じの良い好青年の中田亮と、アクの強い感じがする緑川暁子の2人がやがてパートナーを組み調査を進めることになるのだが、過去の真相解明やストーリーの大胆で意外な進展もさることながら、この不思議なコンビの2人の関り合いがまた楽しい。

 

  大東亜戦争時のビルマ戦線の話だけでなく、中田亮が長崎に飛んで調べ上げたある一族の盛衰と造船業の話なども大変詳細に引き合いに出され、その内容は大変興味深い。これらの話の参考となったと思われる原典も、本書巻末に参考文献として列挙されている。ビルマ関係ではインパール戦の関連書籍以外に、日本兵とビルマの子供たちの絆を綴った『ビルマの耳飾り』(武者一雄、光文社)が挙げられているが、この本ではマーチャというビルマの女の子の耳飾りについて書かれているが、本書「マンダレーの夕日」では、家宝のルビーに託して中田亮の祖父の無事を祈ったビルマ人女性はアーチャとなり、ルビーの首飾りとなっている。

 

 

  ◆『マンダレーの夕日』の所有者変遷:(本書のストーリー上)

    ・アギアッド

      中東の産油国の王子アギアッドがビルマ産のルビーの原石を所有

     ↓

    ・エヴァ・キャンベル

       1965年、当時のトップモデルであるエヴァ・キャンベルが、恋人である

       アギアッド王子から、ビルマ産ルビーの原石をもらうが、この高品質のル

       ビーで作られる豪華なネックレスをねだる。9.7カラットに削られたこの

       ビルマ産ルビーが中央に据えられ、新たに調達された4カラット前後の

       4つのタイ産ルビーが中央のルビーに2つずつセットされ、つなぎの部分

       にはダイアモンドがふんだんに使われた、このネックレスがアギアッド

       王子によって「「マンダレーの夕日」と名づけられる。

       「マンダレーの夕日」をを手に入れた2年後の1967年、エヴァはアギ

       アッド王子と別れ、イタリアのデザイナーと結婚、幸せな日々を送るが

       やがて夫の仕事が行き詰まり、「マンダレーの夕日」を売却。

     ↓

    ・スーザン・エッカード

       エヴァのモデル仲間で、テレビ界への転進に成功したスーザン・エッカ

       ードが、パトロンだった不動産会社の社長に買わせ「マンダレーの夕日」

       を手にいれる。ウォール街で派手に儲けていた証券マン、マイケル・ザッ

       カーマンと結婚するが、ザッカーマンは病的に嫉妬深く、自分の妻になる

       女が他の男から贈られた宝石をつけることを許さず。

     ↓

    ・リンダ・グリーン

       「過ぎし日のカレン」でもらった出演料全てに貯金を出して購入。

       アカデミー主演女優賞を2度受賞し、1970年代後半から80年代半ばに

       かけてハリウッドに君臨した大女優。

       ヨーロッパのある子爵夫人が秘密裡にエメラルドのネックレスを処分

       したがっていることを、知り合いの宝石商から聞かされ、「マンダレー

       の夕日」を手放して、そのエメラルドのネックレスを購入。

     ↓

    ・南米の金持ち老女

     ↓

    ・日本の土地成り金の長女(赤城美佐江) 1980年代終りから90年代初め

       父親が株に手を出し投資に失敗し、「マンダレーの夕日」を手放す   

     ↓

    ・リンダ・グリーン

       映画界から引退後、1994年1月、胃がんにより死去。

       1995年5月2日、ニューヨークのサザビーズで、リンダ・グリーンの遺品

       のオークション開催。

     ↓

    ・イギリスの男爵夫人

 

  ◆河野孝夫の略歴(フィクション)

      昭和20年1月28日、父源一郎、母マツの一人息子として、長崎県に

      生れる。両親が原爆投下時に亡くなったため、孤児になった河野は、

      マツの妹島村よし子に引き取られる。しかし、よし子が病弱のため、

      河野は中学を卒業すると同時に上京し、立川市にある松波秀雄の

      家で働き始める。この松波秀雄は、立川市でもやしの製造卸売業を

      営んでいて、河野が長崎でアルバイトをしていた松波という家の次男。

      昭和35年の春から松波秀雄の家で働くが、朝から夕方まで松波の

      家で働き、夕方から新宿のバー「ウィンダミア」で働くという仕事の掛け

      持ちを5年間続けた。

      昭和40年に東京の三鷹市新川で売りに出ていた古いアパートを即金

      で購入。松波秀雄の家と「ウィンダミア」を辞めた後、自分が買った

      アパートの一室で暮らしながら、夜間高校に通い始める。

      夜間高校を卒業すると、河野は25歳で慶応の経済学部に入学。

      大学での唯一の友人が三枝修一郎で、三枝の家に時々遊びに行き

      そこで妻となる修一郎の姉である三枝優子と知り合う。河野と優子が

      出会った時は、優子・修一郎の父・平吉は2部上場の三枝建設の社長。

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

      

 

              本書の目次

 

       プロローグ

    第1章 1998年3月14日

    第2章 胎動

    第3章 模索

    第4章 交錯する思惑

    第5章 パートナー

    第6章 それぞれの地で

    第7章 前進

    第8章 愛憎の果て

    エピローグ

      参考文献