メコン圏を舞台とする小説  第27回

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 著者

 柘植 久慶

  (つげ・ひさよし)

 

1942年、愛知県生まれ

慶応大学法学部卒。

フランス外人部隊の教官、アメリカ陸軍特殊部隊・グリーンベレーAチームの指揮官を経て、作家活動に入る。

 

◆(本書掲載の”著者のことば”)

 

この作品について、構想を初めて抱いたのは、私がまだ大学生の頃であった。だから30年以上経過して、その期間に幾度も練り直した結果、代表作になる作品として世に出したものである。インドシナ篇は蓄積が一気に迸り出た恰好になり、わずか20日間で600枚を書き上げてしまった。

 

関連テーマ

 

明号作戦(仏印武力処理)

●ヴェトミン(越盟)

●フランス外人部隊

●8月革命とフランスの再侵略

ディエンビエンフーの戦い

ストーリー展開時代

 

1945年3月~1954年5月

ストーリー展開場所

 

・ヴェトナム

  サイゴン、ダラト、フエ、

ディエンビエンフー、ホアビン、ソンラ、ライチャウ、トゥアンジャオマリタオ、フォント、ファンラン、 トゥルチャム、ビエンホア、ミト、 タイニン、カマウ、ニャチャン、バンメトゥト、フートンホア、カオバン、ランソン、ブーイエン、ビンディン、ヴィンオン、カントサデク、バクタン、ソクタンロンスエン、フクイエン 

 

主な登場人物たち

 

・鷲見友之(すみ・ともゆき)

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・川鍋大尉

  (陸軍士官学校出身の中隊長)

・大河原少尉

・軍曹

・オルコック大尉(フランス外人部隊)

・古河少尉

・船村少佐

・船曳大尉

・仲林曹長

・長尾少尉(第3小隊長)

・高根少尉(第1小隊長)

・岩瀬大尉

・酒元憲兵大尉

・藤倉大佐(南方軍総司令部)

・上飯坂少尉(憲兵隊)

・杉田軍曹

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・ゴーシェ大尉

 (第5外人歩兵連隊第1大隊長)

・プレヴァン中尉

・シュミット中尉(ドイツ系の将校)

・クレルモン少尉

・コックボーン大尉

 (第5外人歩兵連隊第2大隊長)

・コマロフ大尉

 (第6中隊長。白系ロシア人)

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・ラ=ロッシェル(ヴェトナム在留のフランス人で鷲見の友人)

・グェン・チ・タム(ラ=ロッシェル夫人で安南女性)

・アンヌ=マリ(ラ=ロッシェルの長女)

・カトリーヌ(ラ=ロッシェルの次女)

・アポリン

 (鷲見とアンヌ=マリとの間の男児)

・アナスタジー

 (鷲見とアンヌ=マリとの間の女児)

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・グェン・ヴァン・ミン

  (ラ=ロッシェルのゴム園支配人)

・ドン・ティエン・ラン

  (ゴム農園の使用人)

・グエン・フー・ティ

  (ゴム園の民兵隊指揮官候補)

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・酒井達佳(鷲見の叔父)

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・胡志明(ホーチミン)

・ファン・ヴァン・スン

  (ハノイの地元の商人でヴェトミンの秘密党員)

・ドン・ヴァン・タン

  (ハノイのヴェトミン組織の幹部)

・保大(バオダイ)皇帝

・ジャン・サントニ

  (フランス軍事使節団)

・ヴォ・グエン・ザップ (ヴェトミン側の軍事代表)

・ルクレール元帥(インドシナ総督兼派遣軍総司令官)

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・ド=ラ=クロワ大尉(フランス軍)

・アガール少尉(フランス軍)

・ジャック・マシュ大差

(ルクレール元帥の副官)

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・グェン・ヴァン・ビン

 (ヴェトミンの列車爆破テロ実行者)

・ファンランのカトリック教会の司祭

・ブラン少佐

  (ファンラン守備隊の司令官)

・ピカルディ軍曹(従軍牧師)

・ファン・ヴァン・フー

 (タンニェプ村の有力者)

・アドルフ・オスマン少尉

 (フランス外人部隊第3大隊)

・カウフマン少尉

 (フランス外人部隊のドイツ人)

・キーファー少尉

 (フランス外人部隊のドイツ人)

・ド=ラットル・ド=タシニィ元帥

  (インドシナ派遣軍総司令官)

・モーリス=ビジャール少佐

・トランキエ少佐

・ギメ中佐

  (インドシナ派遣軍司令部参謀)

・プレシャニク少佐(ギメ中佐の部下)

・ディジョン大尉(ギメ中佐の部下)

・ルヴァン大尉

・ハンツ・シュヴァルツ曹長

  (第1外人落下傘大隊)

・ドラガン中尉(クロアティア人)

・シュールマン少尉(オランダ人)

・ジロー少佐

  (第1外人落下傘大隊長)

・プレゲ少佐(ハノイ司令部の参謀)

・シュミット中尉

・ミロー大尉(中隊長)

・マンネルハイム中尉

    (フィンランド出身)

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・アンリ・ナヴァール中将

・クリスティアン・ド=カストリ大佐

  (ディエンビエンフー司令官)

・ゴーシェ中佐

・カペイロン大尉

 (ベアトリス陣地守備の中隊長)

・マルロー中尉(司令部付)

・ローラン中尉

・ピロット大佐(砲兵隊の将校)

・セガン=パジー中佐

  (ド=カストリ大佐の参謀長)

・ボテラ大尉(第5ヴェトナム人落下傘

  大隊長のフランス人)

・ビジャール少佐(第6植民地落下傘大隊)

・トゥレ少佐(第8突撃落下傘大隊)

・トーマ(第6植民地落下傘大隊)

・ジロー(第1外人落下傘大隊将校)

・クレマンソン

  (第2外人歩兵連隊第1大隊将校)

・エルヴァエ(戦車隊将校)

・ゲラン(空軍将校)

・ヴァイヤン(砲兵隊将校)

・シビッチ中尉

 (ボスニア・ヘツツェゴヴィナ出身)

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・ホアン・ヴァン・チュー(ヴェトミンの大隊政治将校)

・ファン・ヴァン・スン小隊長(ヴェトミン軍第312師団)

・ゴ・ヴァン・ミン中隊長 (ヴェトミン軍第312師団)

・トゥ・ビン・ジョット連隊長

・グェン・ヴァン・ビン大隊長

 

 

   

          

     「前進か死か 1 【インドシナ】」  

             marche ou mort

 

     柘植 久慶 著、

    中央公論社(C-NOVELS)

    1996年4月

    文庫版 ISBN4-12-500404-8

         

 

 

  《単行本『前進か死か』は、1994年10月、中央公論社より刊行》

 

 

 フランス外人部隊の教官、アメリカ陸軍特殊部隊(グリーンベレー)の指揮官と言う異色の経歴をもち、いろんな分野に数多くの著作を出し続けている作家・柘植久慶氏の代表的なシリーズ作品『前進か死か』の第1部が本作品。1831年に創設されたフランス外人部隊の合言葉である「前進か死か(マルシェ・ウ・モール:marche ou mort)」を書名タイトルにしたこのシリーズは、フランス外人部隊の歴史とともに、 「第2部 アルジェリア」、「第3部 ド=ゴール暗殺」、「第4部 コンゴ動乱」、「第5部 ホーチミン・トレイル」、「第6部 シアヌーク打倒」と、続いていく。第1部は、1945年3月9日に仏領インドシナに進駐していた日本軍により発動された「明号作戦(仏印武力処理)」から1954年5月のディエンビエンフー陥落までの時代を背景にヴェトナムを舞台とした作品だ。

 

 本シリーズを通しての主人公である鷲見友之は、愛知県豊橋市出身の日本帝国陸軍少尉で、大学でフランス語を専攻しており、それを買われてインドシナへ派遣され、普段は司令部が置かれていたサイゴンにいたが、1945年3月、「仏印処理」でフランス勢力を一掃する作戦に際して、実戦部隊に臨時で赴くことになった。1945年3月9日夜、土橋第38軍司令官の武力発動の命令に呼応し、鷲見が参加した部隊は、フランス軍拠点で降伏勧告をし無事に外人部隊将兵を南方軍総司令部の指示するダラットの収容所へ護送できたが、引き続き、鷲見はラオス国境に近い小さな行政中心地で日本軍が建設した飛行場があるディエンビエンフーに向かえとの指令を受けた。明号作戦で捕捉し損ね北上して雲南に逃亡しようとするフランス軍を掃討するための地上作戦に入るためであった。

 

 1ヵ月半以上にわたるフランス軍を追撃して北上を続け中国国境に近い山岳地帯まで進んだが、5月中旬には南方軍司令部の置かれたサイゴンに帰還した。その後、憲兵隊に協力し、対共産ゲリラ鎮圧行動に従事したりしたが、1945年8月、鷲見友之はヴェトナムの地で終戦を迎えることとなった。ヴェトナムの将来はどうなるのか?フランス勢力が戻るのか、それともヴェトミンが実権を握るのか、あるいは日本の擁立したバオダイ皇帝がアンナン王朝を維持し続けるのか?いずれにせよ降服した日本軍が武装解除されることになり、故郷で暮らしていた両親と妹2人をアメリカ軍の空襲で失った鷲見は、どうせなら新天地を見つけそこで一から出直したいと思った。

 

 日本軍の兵士の中の一部には、脱走してヴェトミンに加わるものがいる一方で、インドシナの再占領に取りかかるフランス軍に協力する日本軍の将兵もおり、鷲見中尉(ポツダム宣言受諾により、一階級昇進した、いわゆるポツダム中尉)はフランス語が通じる上、ヴェトミンに権力を与えるべきでないと主張していて、一旦は、フランス軍の戦闘部隊に積極的に協力し、フランス軍とビエンホア北方でヴェトミン作戦に従事する。日本人部隊も解散を命ぜられ武装解除が実施され日本軍将兵の本国送還が開始される中、鷲見はヴェトナムに残り、ファンラン近くのゴム園を経営していたフランス人ジャック・ラ=ロッシェルの仕事を手伝うことを決める。

 

 フランス勢力はコーチシナの平定からアンナンに向かって支配の回復を進め、1946年の新年早々、鷲見はラ=ロッシェル一家とともに、一旦はヴェトミンが支配していたファンラン近郊にある友人のゴム園に戻り、民兵を組織しヴェトミンの地区本部を一掃するなど、ゴム園の再建に努めた。鷲見は友人ラ=ロッシェルの長女アンヌ=マリと結ばれて、新たな人生を歩み始め、1947年、48年には2人の子どもにも恵まれた。だが平穏な生活は続かなかった。1949年、ヴェトミンによるテロが妻子と義母・義妹の命を無惨に奪い去ったのだ。

 

 失意の友人ラ=ロッシェルはゴム農園を処分しフランスに帰国し、一方、全てを亡くし鬼と化した鷲見は、フランス軍外人部隊に志願し、外人部隊での呼び名を「棕櫚の木」を意味する「パルミエ(PALMIER)」と名を変えてヴェトミンと闘う決意をする。最初はカントに駐留する第13准旅団(13DBLE)第3大隊の作戦担当副官としてメコン・デルタでの戦闘に従事するが、のちに第1外人落下傘大隊(1BEP)に転属となり、ヴェトナム北部の紅河と黒河の間の分水嶺地帯において、ヴェトミンの拠点攻撃に従事する。そして1953年11月にはフランス軍が決戦地に選び要塞を建設するディエンビエンフーに降下し、血と硝煙と泥濘のディエンビエンフーでヴェトミンと激戦を展開していく・・・

 

 本書に詳しく描かれた1945年3月から同年8月の日本軍の敗戦、ホーチミンによるヴェトナム民主共和国の独立宣言、フランスの再復帰から第1次インドシナ戦争と、1954年5月のディエンビエンフー陥落までの時期にかけての、ヴェトミンやフランスの動きを中心としたヴェトナム現代史も大変興味深いところであるが、特にディエンビエンフーの戦いについては、フランス軍の反撃も含め多くの頁を割いて詳細に描かれている。またインドシナに展開したフランス外人部隊で戦う男たちの様子については同じ著者によるノンフィクション『フランス外人部隊』にも詳しいが、1953年のディエンビエンフーでのクリスマスの様子などをはじめ、いろんな話が取り上げられている。

 

 1945年3月の日本軍による仏印武力処理の際、フランス外人部隊の第5外人歩兵連隊第1大隊を率いていたゴーシェ大尉は、日本軍と戦いながら同年5月に雲南に脱出を果たし、翌46年インドシナに戻り以降もずっとインドシナにいたが、ディエンビエンフーでは第13准旅団長として中佐に昇進し東北端のベアトリス陣地を守備し1954年3月に戦死した実在の人物。本書では、主人公の鷲見に、この日本軍と戦い、ヴェトミンと戦ったゴーシェ大尉と深い接点を持たせている。

 

 ゴム園を経営するインドシナでのフランス人入植者の様子も、祖父の代に入植していたフランス人ジャック・ラ=ロッシェルを通して描かれているが、鷲見の友人であり義父となる設定で登場させている。ちなみに2人の最初の出会いは鷲見がヴェトナムに着任間もないころサイゴンのカティナ街の書店で、武力を使わずにラオスを植民地化した、オーギュスト・パヴィの伝記を買った時で、妻子や2人の孫をヴェトミンのテロで亡くしたジャック・ラ=ロッシェルは一旦フランスに帰国するが、その後アルジェリアで農園を経営する。本書に続く本シリーズ「前進か死か2【アルジェリア】」では、ディエンビエンフー陥落後、ヴェトミンの捕虜収容所から釈放された鷲見が、外人部隊司令部のあるアルジェリアのシディベルアベス近郊で農園を経営していたジャック・ラ=ロッシェルと再会する場面からストーリーが始まっている。

 

              本書の目次

 

    第1部

 

    1. 仏印処理

    2. ゴーシェ大尉

    3. 追撃

    4. ゴム農園主

    5. ハノイ

    6. 1945年8月15日

    7. 混乱

    8. 帰還

    9. ニッポ=ヴェトミン

   10. 新妻

   11. 爆破

   12. 決断

   13. 外人部隊

   14. オスマン少尉

   15. 大戦果

   16. 第1外人落下傘大隊

   17. ディエンビエンフー作戦

   18. クリスマス

   19. 終りの始まり

   20. 反撃

   21. 友情

   22. 陥落