|

「マンゴー・レイン」
馳 星周 著、
2002年9月、角川書店
ISBN4−04−873417−2
⇒馳星周公式サイト「Sleepless
City」
本作品は学芸通信社の配信により、「東京中日スポーツ」(平成12年3月29日
〜平成13年2月28日)「いわき民報」「宇部時報」に連載された『マンゴー・レイン』
を大幅に加筆・訂正したもの
本書は、中国黒社会が深く根を張った大歓楽街・新宿歌舞伎町で騙しあいを繰り返す者達を生々しく活写した『不夜城』でデビューし、その後も『鎮魂歌ー不夜城U』『漂流街』などを発表し、ロマン・ノワールの旗手と言われる馳星周氏によるタイ・バンコクを舞台にとした長編冒険小説。宝探しと争奪戦、追跡と脱出・逃亡劇がバンコク市内を縦横に派手に繰りひろげられる物語で、バンコク生まれバンコク育ちの人買い業の男・十河将人と、雲南から騙されてバンコクの場末の売春宿に売られたメイと呼ばれる中国人女性という他人同士が、互いを決して信頼し合わないまま、自らのどん底の境遇からの脱出を夢見ていろんなグループから狙われながら、メイの客で財閥の創業者の中国系タイ人が残した物をたよりに、共に宝探しをする。
新宿のやくざの依頼を受け、タイのソープの女を日本に引っ張るためにバンコクを訪れていた十河将人(そごう・まさと)は、バンコクのサリカ・カフェで、幼馴染で貿易会社を始めいくつもの会社をタイで経営している小倉富生(とみお)と5年ぶりに偶然再会し、法外な報酬で、仏像を持った中国人の女に偽造パスポートを手配してシンガポールに連れ出す仕事を依頼された。しかし、彼を待ち受けるのは、どす黒い無数の罠だった。
この主人公の男性・十河将人は、タイに腰を据えた日本人の二世としてバンコクのスクムビットのソイ26界隈で生まれバンコクで育った男で、18歳から25歳までを東京で過ごすが、タイでバクチで叔父の遺産を短期間で使い果たし更に借金を抱え、この借金を返済するために、タイ人の妻を日本のやくざに売り渡す、という愚かで冷酷な男だ。自らも再び日本に戻り新宿のやくざの使いっ走りのようなことをして小銭を稼いでいたが、やがて妻はエイズで亡くなり、その後、人買いの仕事を選んでいた。すぐ頭に血がのぼり暴発する危うい面を持っていそうだが、危険察知の状況判断力など、冷静で理性的なところも多々見られる。
一方、十河将人と行動を共にすることになる女性は、本名は別にあるものの、タイではメイと呼ばれてきた中国人美女。叔母に騙され、15歳で雲南からミャンマー経由でバンコク・中華街の売春宿に売り飛ばされ、10年間奴隷のような生活を送ってきたという憎悪と絶望だらけの女性で、過酷な環境で生きることを強制されてきて逆に強さを身につけていた。したたかで強くスキを見せずに一人で周りの男たちを翻弄する。しかし、人が図書館や学校に行くこととかコンピュータを操作できることを羨む場面などには、自由を長年奪われた彼女の無念と彼女の十年を奪ったような連中がのざばっている世界に滾らせる怒りは如何ほどかと哀しい思いにさせられる。
更に本書を面白くしているのは、十河将人と幼馴染同士という男たちの存在だ。十河将人と小倉富生に加えてタイ人のチャットという、大金持ちと人買いとやくざの3人の絡みが複雑で微妙だ。チャットはタイの陸軍に入隊するが除隊するとヤクザのボディガードになっていた。3人は昔はよくつるんで悪さをしており、本書でも子どもの時の3人のエピソードが色々と思い返される。
本書のストーリー展開はバンコク市内に限定されながらも、バンコク市内を縦横に移動し暴れまわっている。スリウォン通りのサリカカフェでの十河将人と小倉富生の偶然の出会いから、サイアムスクエア、中華街、スクムビット通り界隈などでのストーリー展開から、チャトゥチャック市場やロイヤル・シティ・アヴェニュー近辺での逃亡劇などをはじめ、ストーリーの移動展開が多く、バンコク市内のいろんな通りや場所が登場し、土地勘がある人にとっては楽しみが倍増することであろう。一見意外に思えるラストも、最後までこの作家らしい展開だと思えた。
|