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「メナムの濁流」
鬼島紘一 著、
2002年3月、双葉社
ISBN4−575−23433−8

2004年4月、双葉社(双葉文庫)
ISBN4−575−50935−3
(こちらは、2002年3月に双葉社より刊行された単行本を
文庫化し同じく双葉社より刊行)
本書は、シャム湾の”ガス田”開発ビジネスに関わりタイに赴任した日本人ビジネスマンを主人公とし、1991年2月23日に実際に起こったタイの軍事クーデタから、1992年5月の「5月流血事件」にいたるタイの政情を背景に、巨大利権をめぐって陰謀渦巻くタイを舞台に描かれた国際謀略企業小説。本書の主人公・藤堂明人は、大学の資源工学科卒で、中東や東南アジアを中心に世界中で石油・ガスの開発を行っているJED(日本エネルギー開発)のエリート社員。アメリカのMITにも留学し赴任地のアメリカや中東での仕事が中心だった藤堂が、1981年にタイ南部ソンクラで数ヶ月勤務したことはあったが、1991年初、まさに湾岸戦争が勃発した時に、10年ぶり2度目のタイ赴任として、本社業務課長から37歳でバンコク支社の副支社長としてバンコクで働くことになる。
藤堂の仕事は、1981年のソンクラ勤務の時は、間もなく生産が開始されるエレファント・ガス田の開発工事の最後の大詰めを迎えていた時に陸上基地の建設という現場の仕事であったが、1991年のバンコクでの主たる仕事は、開発権の一部を国際入札で外国企業に譲渡したもののタイ政府がいまだ最大の権利を留保していたシャム湾の新鉱区の権利の一部譲渡を、国際入札で敗退していたJEDが、タイ政府の要人や石油公団の幹部らに働きかけて別のアプローチで狙うという非常にポリティカルな仕事であった。
藤堂のバンコク赴任直後の1991年2月23日には、タイの軍事クーデターが勃発。翌年5月の5月流血事件に至るまでのタイの政局を背景に巨大利権をめぐっていろんな陰謀や画策が渦巻く中、シャム湾ガス田鉱区獲得の仕事や、社内派閥抗争が激しい会社、前妻との離婚騒動などに翻弄されてきた藤堂を癒すのが、美貌のタイ人女性オイとの愛だった。藤堂のバンコク赴任直後に、バンコク市内のエカマイにあるクラブに支社長の篠崎に連れて行かれ、そこでオイと出会うが、オイの女友達が日本でやくざにひどい目に遭っているのを助け出すのに協力したことから、2人は次第に愛を深めていく。
本書では、タイの政治状況や現代史・軍の役割、経済・社会状況など随所に詳細な解説が盛り込まれているが、実際に起こった1991年2月の軍事クーデターから翌92年5月の5月流血事件までの経緯についても小説のストーリーの展開に沿って詳述されている。しかしながら本書はフィクションであり、右記の主な登場人物の名前にあるように、一部の実在の人物については微妙に名前を変えて使っている。1958年に陸軍士官学校を卒業した第5期生組で、クーデターの実質的な実行者だったスチンダー陸軍司令官は本書ではスティンとなっているように、他にも実在のスントーン国軍最高司令官、チャワリット元陸軍総司令官、チャチャイ首相、アーティット副首相、カセート空軍司令官、ぷらパット海軍司令官、アナン暫定首相、チャイナロン第一管区軍司令官の名前が変えてある。
また、本書の主人公を取り巻くストーリーや環境の重要な設定が、シャム湾のガス田開発となっているため、当然この点についての記述も少なくない。もちろん本書はフィクションで、主人公・藤堂の勤める日本エネルギー開発という会社も実在の会社ではないものの、本書各所に見られる記述から、シャム湾のガス田開発に早くから関わってきた三井石油開発をモデルにしていることは、容易に伺える。巻末の参考文献にも、シャム湾のガス田開発に長年関わってこられた元三井石油開発勤務の著者によるドキュメント本『タイ沖ガス田開発』(林静一著、西田書店、1997年)が挙げられている。
尚、本書の主たる時代と舞台は、1991年から992年のバンコクであるが、本書冒頭の第1章・第2章は、本書主人公の藤堂が数ヶ月ではあるが、初めてタイで働く場面の話となっており、その時代と舞台は、1981年のタイ南部となっていて、ソンクラやハジャイの町が描かれている。そこで、タイ南部に関し、シャム湾のガス田開発以外に、ベトナム難民と海賊とか、大東亜戦争初期の日本軍の侵攻などについても触れている。
本書の目次
第1章 シャム湾開発
第2章 ソンクラ
第3章 ペルシャ湾動乱
第4章 バンコク赴任
第5章 クーデター
第6章 救出
第7章 火焔樹
第8章 画策1
第9章 大事故
第10章 画策2
第11章 流血前夜
第12章 流血の五月
第13章 濁流
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