メコン圏を舞台とする小説  第39回

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関連テーマ

 

●フライングタイガー

●南ベトナム人民解放戦線

●ICC(国際休戦監視委員会)

●ラオス内戦

 

ストーリー展開時代   

 

・1973年

・1968年(回想)

 

ストーリー展開場所

 

香港

・ラオス

  ビエンチャン

・南ベトナム

  ツーラン

  フエ(ユエ)

タイ

  バンコク

・西沙群島

・日本

 

主な登場人物たち

 

・天藤謙(主人公)

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・呂福堅(香港の中年刑事)

・大坪

 (天藤の極東航空時代の元教官。「東南アジア航空」機長)

・遠井瞭子

 (サイゴンの個人病院で働いていた看護婦)

・グエン・D・ハオ中尉

 (南ベトナム政府軍の逃亡兵)

・陳徳清(カイタック空港の管制官)

・手島

 (香港警察留置場で天藤と同房となる香港・新界在住の日本人青年)

・ジェニイ・ポウエル

 (カイタック空港の女子職員)

・ジェニイの両親

・月娥(水上レストランの皿洗い、ジェニィの姉)

・滝口清(世界無銭旅行中のF大の学生)

・姜樹永(九竜貿易公司の社長)

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・ドンムアン空港の気象係官

・カイタック空港内にある

 日航の事務所の整備士

・カイタック空港の航務課の係官

・香港のワシ鼻の英国人警部補

・ビエンチャンのフランス料理店”セーヌ”の支配人

・村越(東京日報の新聞記者)

・アンクル・トムと呼ばれる黒人の大男(ラオ・ヌア・アカット(北ラオス航空)のパイロットで、ICC(国際休戦

監視委員会)の元雇われパイロット

・ピエトロ(イタリア人のマネージャー)

・ビエンチャンの税関吏

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・トーマス・ブライト軍曹

・三浦久子

 (浜松基地の売店に勤めていた娘)

  

 

   

     

    「赤い航空路」 

        

    福本和也 著、

    1980年12月、角川書店(角川文庫)

   

 

     

 

 

 本書『赤い航空路』は、航空ミステリーの第一人者・福本和也氏(ふくもと・かずや、本名:福本一弥、1928年9月23日大阪府大阪市生まれ)による香港とラオス・ベトナムを舞台とした航空推理小説。本書は、1974年に弘済出版社から書き下ろしで『無頼パイロット』で刊行されていたが、『赤い航空路』に改題されて1980年角川文庫から再上梓された。パイロットとして長年の体験を持つ福本和也氏は、「謎の巨人機」「消えたパイロット」「謎の水上機」「謎の乗客名簿」など、数多くの航空ミステリーの著者で、「K7高地」「泥炭地層」は直木賞候補作品でもあり、航空ミステリー以外の著書もあるが、1997年1月1日に逝去された(享年68歳)。

 

 本書の主たるストーリーの展開時代は、第4次中東戦争の停戦が成立したばかりの1973年末。一匹狼のフェリー(空輸)パイロット天藤健(てんどう・けん)は、タイ・バンコクから香港まで依頼された小型機を空輸中、ラオスのパクセ上空で、真っ黒に塗られた謎の国籍不明のジェット戦闘機に襲撃を受けた。見事な操縦で危うく難を逃れたものの、目的地の香港では、空港の管制官の誘導であやうくボーイング機と空中衝突しそうになる。香港着陸後、香港のカイタック空港の管制官を問い詰めようとしたが、その直前に何者かに管制官は殺されてしまい、天藤は殺人容疑者になってしまう。その後も彼の身辺に続発する不可解な事件の渦中に巻き込まれていくが、主人公・天藤謙のたぐい稀な航空機の操縦技術を借りたくて、主人公の身辺に爛々とした眼を光らせている者は、国際的スケールで活動する驚くべき凶悪な組織であった。

 

 25歳で精悍な顔立ちで眉がくっきりと濃い主人公・天藤謙は、どこにも所属しない一匹の空輸屋。世界中を股にかけて飛び歩くこの職業は、飛行機の輸出の多いアメリカでは、独立した職業としてなりたっており、飛行機を輸入、あるいは輸出する場合、解体して梱包し、船に積んで運ぶよりは、そのまま買手の国まで空輸したほうが費用がずっと安くつく。そこにフェリー・パイロットという職業が成り立つ必然性が存在しているというわけだ。

 

 この主人公・天藤謙は、もともと航空自衛隊の出身で、広島県の高校を卒業すると航空学生として入隊し、退官するときは、輸送機に乗っていた。航空学生の頃から、部内では抜群の飛行適性の持ち主として注目されていたのだが、輸送機隊に移ってからも、防衛庁長官、空幕長などのVIP(要人)専用機のパイロットに選べれるほど優秀であったが、まさしく、原題のタイトル『無頼パイロット』らしく、フライトと関係ないところでは、色々と問題を起こし、自衛隊退官後に勤務した民間航空会社も辞めさせられていた。

 

 本書のストーリー展開でベトナムが舞台として登場するのは、日本の民間航空会社も実質クビとなった天藤謙が、まとまった金が欲しくて南ベトナム行きのLST(米軍戦略物資輸送船)に乗り込み、1968年の秋、天藤謙は、南ベトナムのツーラン港に入港する。船の機関が故障し、一泊の上陸が許されたが、上陸地のあるカフェで中年のアメリカ兵から、意外な目的のための飛行を依頼される。このシーンで、南政府軍の逃亡兵やサイゴンの個人病院で働いていた日本人看護婦が登場する。

 

 最初に天藤謙が謎の国籍不明のジェット戦闘機に襲撃を受けたのは、ラオス上空であったが、ストーリーの中盤以降で、なにやら不可思議な事件の背後にいると思われる者たちに香港からの飛行を命じられたのがラオスで、ラオスでストーリーが展開する。飛行の真の目的を知らされていない主人公の天藤謙が、「今度の飛行の目的は、やはり、麻薬しか考えられないのだった。パテト・ラオと右派、中立派の3軍が入り乱れて争奪戦を展開しているジャール平原のシエンクワンは、このビエンチャンの北東200キロのところにあり、アヘンの集散地として世界的に有名だからだった。革命も、内戦も、左右両派の激突も、結局は、ケシの花をにぎるのが目的だった。そして、この国では、最も有力なアヘン商人が将軍たちであることは、公然の秘密なのだ」と思う場面がある。

 

 ビエンチャンでは、フランス外人部隊としてベトナムに来た残党やICC(国際休戦監視委員会)さえ利用しようとする不良外人など、アヘン密輸のスリルと利益に魅せられ、祖国を失ったコロン(植民者)の末裔たちの姿も紹介されている。ICCとは、インド・ポーランド・カナダの3カ国で構成されており、外交特権ももっていて、設置当時は、自由陣営から北ベトナムのハノイへ空から往復できる唯一のルートになっていて、左派地区にも、ヘリコプターで自由に行き来していた。しかし、主人公の身辺に爛々とした眼を光らせていた凶悪な組織とは単なる麻薬密輸組織ではないところが、本書の面白みの一つでもあろうか。尚、本書では、ストーリー展開に絡め、2・28事件や蛋民族など、台湾や香港に関する歴史や民族・社会についての詳しい紹介も載せられている。

 

              本書の目次  

 

 

    第一章  幻の戦闘機

    第二章  2000ドルの密約

    第三章  異常接近

    第四章  蛋民族の娘

    第五章  難民アパート

    第六章  乗客

    第七章  九竜城

    第八章  襲撃

       解説              中島河太郎