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祖国を捨てた男たち
「フランス外人部隊」
柘植
久慶 著
集英社文庫、1989年10月発行
ISBN4-08-749513-2
(この作品は、1986年4月、原書房より刊行された。)
<著者紹介> 柘植 久慶 (つげ・ひさよし)
1942年愛知生まれ。慶応大学卒。
フランス外人部隊を経て、アメリカ陸軍グリン・ベレー大尉に。
ノンフィクション『ザ・グリンベレー』でデビュー。代表作に『女王の身代金』
『グリンベレーの挽歌』がある。
<本書著者紹介より、本書発刊当時>
外国人傭兵の伝統は、もともとヨーロッパにおいて長く根強いものがあり、その根源はギリシア・ローマの昔にまで遡ることができるが、本書はフランス外人部隊の教官を務めたことのある著者が、『外人部隊』、『モロッコ』等、名作映画の舞台にもなったフランス外人部隊の歴史とフランス外人部隊として戦ってきた男たちの姿を描くノンフィクション作品。1831年3月、フランス軍事省の起案を国王ルイ・フィリップ(在位1830〜48年)が署名し、フランス外人部隊の創設が決定される。この背景には、当時パリに多数いた職のない外国人の治安上の問題と、アルジェリアにおいて増加していたフランス軍将兵の損害があったとされる。
アルジェリアを揺籃の地として、スペイン遠征(1835〜36年)、コンスタンティーヌ攻略戦(1837年)、クリミア戦争(1854〜1855年)、1859年のイタリア統一戦争、1863年からのメキシコ出兵、1870年の普仏戦争、インドシナと世界の各地を転戦し、20世紀に入ってからも、カサブランカ占領(1907年)、第1次世界大戦をはじめ、第2次世界大戦、インドシナ戦争、そしてアルジェリア戦争などを戦った。このようにまさに近現代の数多くの世界紛争にフランス外人部隊は関わっていて、1831年創設以来の各地での戦役との関わりの歴史が詳しく解説されている。もちろん、インドシナ戦争を始めとしてメコン圏についての記述も、少なくない。
フランス人の身代わりという傾向が強まりフランス外人部隊の増設が続いたのは第一次インドシナ戦争の激化の時で、まず2万名まで増大され、続いて1950年には4万名を数え、さらに頂点は1953年から54年のディエンビエンフー戦の最中で、このころ総兵力6万5千名に達したという。インドシナ戦争が始まると、訓練施設のあったアルジェリアからこのうち大量の外人部隊兵がスエズ経由でインドシナに送られる。また、インドシナ戦争では、1年間にフランス軍の失う将校の数が、毎年サン・シール陸軍士官学校を卒業する者の数を5割も上回り、こうした深刻な将校不足を補うのが、将校としての適性を有し、また十二分の実戦経験を積み重ねていた、ドイツなど旧敵国の将校経験者であった。
インドシナ戦争におけるフランス軍は、外人部隊が主役の座を占め、ディエンビエンフー要塞の守備隊としても多数の外人部隊が派遣されている。ディエンビエンフー陣地で戦う1万以上のフランス側の兵員にあって、最大の割合を占めたのがドイツ人で、ヴェトミンの撒いた宣伝ビラは、どれもフランス語とドイツ語の併用で記してあったほどだ。ディエンビエンフーの戦では、少なからぬ現地徴募のヴェトナム人たちが外人部隊兵としてもフランス国旗のもとに戦っていたこともつけ加えておきたい。ディエンビエンフーの戦いに限っても、ベアトリス陣地で戦死した第13准旅団長ゴーシェ中佐、ビジャール少佐率いるフランス軍の反撃とディエンビエンフーの戦闘でのドイツの軍歌、ド・カストリ司令官とフランス軍は降服したのか陥落したのかという謎、アメリカ軍の装備、ディエンビエンフー戦の従軍看護婦ド・ガラールなど、本書にはいろいろと興味深い話が盛り込まれている。
フランス外人部隊のインドシナとの関わりはもっと古く、19世紀末の1883年に始まる。1883年9月、外人部隊の司令官だったネグリエ大佐が、将軍に昇進してインドシナ派遣軍の臨時司令官に任命されると、インドシナ派遣軍の編成に外人部隊を加えることに決める。1883年11月、アルジェリアから1個大隊がトンキン地方のハイフォンに上陸し、最初の目標であるハノイ北西50キロほどの地点にあるソンタイに向かう。ここでの戦いの相手は、当時のベトナム(阮朝)を自己の勢力圏と考えていた中国・清朝が侵入するフランス軍に対抗させようと、南下させていた地方軍閥<黒旗軍>だった。翌1884年2月に到着した第2大隊を陣容に加えたネグリエ将軍の指揮下のインドシナ派遣軍は、同年3月バクニンを攻略、6月にはチュエンクァンを占領する。このチュエンクァンを守備する外人部隊・フランス軍正規兵と大兵力の清国正規兵を加えた黒旗軍との間で1885年初、チュエンクァン攻囲戦が繰りひろげられ、「トンキンでの、不滅の外人部隊 チュエンクァンに翻る我らが軍旗」と、外人部隊の代表的軍歌<ル・ブダン>にも歌われている。
世界各地を転戦したフランス外人部隊の一番東はベトナムではなく、台湾であったという意外な事実も紹介されている。インドシナに向かっていたフランス外人部隊第4大隊が、台湾にいた清の西太后配下の海賊がフランス船に敵対行動を起こした事で、1885年1月急遽台湾に向かい、台湾で清国不正規軍と交戦している。更にフランス外人部隊は、日本軍とも交戦したことがある。第2次世界大戦前夜、インドシナにはフランス正規軍以外に、第5外人歩兵連隊が駐屯しており、日本軍の仏印進駐が始まると、日本軍とフランス軍との奇妙な共存が開始される。しかし1944年6月、連合軍がノルマンディーに上陸すると、情勢は変化を見せ始め、親独のヴィシー政府の支配力は低下していき、敗色濃厚な日本の在留軍とインドシナ政庁との間に対立が顕在化してきた。米軍がインドシナ上陸をしてきた場合、在インドシナのフランス軍が呼応することを恐れ、日本軍は武力行使による在インドシナのフランス軍の武装解除とインドシナの完全占領を計画し、1945年3月9日クーデターを敢行した。この仏印処理の際に、日本軍とフランス外人部隊の交戦が起っている。第5外人歩兵連隊の主力は、日本軍との戦闘を続けながらベトナム西北から中国領の雲南へ脱出している。
本書には、戦闘に関わる話以外にも、外人部隊に関わるいろんなエピソードも豊富に取り上げられている。外人部隊での年間の大きな祭典、外人部隊の軍服の変化、戦争がない時の任務、結婚と住居、休暇や自由時間、外人部隊の軍歌、映画や小説など名作の中での外人部隊、入隊者の志望理由や退役後のその後、外人部隊の入隊方法、などと興味深いテーマは尽きない。外人部隊の教官を務めたことのある著者自身のフランス外人部隊との出会いのいきさつも、本書で触れられている。1961年、大学の夏期休暇を利用して海外旅行をしていた著者が、ベルギーで前年に勃発していたコンゴ動乱に外人傭兵隊の一員として参加することになり、その際にかなり多くのフランス外人部隊の出身者を知ったと書かれている。
目 次
はじめに
T 傭兵の復活 (1831年〜1870年)
外人部隊の創設/フランス人の身代わりに戦う軍隊/通じなかった命令
傭兵の伝統とスイス人/最大の好敵手アブデル・カデル
悲劇に終ったスペイン出兵/評価を変えた攻防戦
外人部隊の象徴<ケピ・ブラン>/聖地シディベルアベス
カデルのポプラ/王子から贈られた連隊旗/降伏した叛徒指導者を殺害 モロッコのスルタン、国境に大敗
U サハラ砂漠に戦う (1871年〜1900年)
兵卒から元帥にまで昇進した男/<外套>と呼ばれた時代
文豪トルストイと対峙したクリミア戦争/連隊旗、あわや敵の手に!
ソルフェリーノ会戦と赤十字運動/祖国と戦って戦死した外人部隊兵
ドイツ公子、一兵卒として死す/片腕の英雄ダンジュー大尉
セルビア国王は外人部隊出身/パリ・コミューンを鎮圧
ドイツ人将校、除隊後に外人部隊と交戦/マクマオン元帥と外人部隊
小説<ボージェスト>の世界/ラバを用いた砂漠のパトロール
戦友を見捨てぬ外人部隊魂/イギリス軍将校の集団入隊
西太后の軍隊との戦い/外事部隊、台湾へ
1万9200キロ踏破のスーダン遠征/女兵士と戦ったダオメー遠征
マダガスカルでの戦闘/サハラ砂漠一周の大行軍
V 悲劇のなかの英雄 (1901年〜1950年)
カサブランカ占領/特派員に解任された将軍
隊史を飾る小分遣隊の勇戦/100以上の国からの志願者
ガリポリ上陸作戦の悲劇/ガリバルディ旅団の奮戦
<外人部隊の父>ロレー将軍/ヒンデンブルク・ラインへの進撃
ロシア革命ー白系ロシア人大量入隊/アブデル・クリムの叛乱
脱走兵、叛徒の軍事顧問となる/伝書鳩に救われた孤立部隊
日本人参加者は60名/映画<モロッコ>の舞台/志願兵の奪い合い
ナポレオンの子孫は一兵卒/2日間で消滅した連隊
北極圏からアフリカまでを転戦/ナチスを支持した外人部隊
ロシア貴族の中佐、エルアラメインで戦死/同士討ちした2つの外人部隊
<自立集団>北アフリカに戦う/ロンメルに叙勲された<元>外人部隊兵
外人部隊の女性兵士/日本軍と交戦した仏印駐屯軍
砂漠に消えた志願者たち/濃霧のなかのフートンホア攻防戦
アメリカ軍の装備で戦ったインドシナ戦争/酒をおごられ入隊志願
W インドシナからアルジェリアへ (1951年〜 )
華僑に財宝を託した一兵卒/黄化した外人部隊
ディエンビエンフーの戦闘/ゴーシェ中佐の最期
ドイツの軍歌で突撃した外人部隊/降服か陥落か?
アルジェリア戦争と外人部隊/アルジェの戦い
将軍たちの叛乱/ド・ゴール、外人部隊解散を阻止
外人部隊OB、コンゴ動乱で活躍/ザイールの<白人救出作戦>
X <外人部隊>の男たち
フランスの緊急展開軍/犯罪者の逃げ場とは昔の話
外人部隊のクリスマス・イブ/余剰布地が服装を変えた
戦争がない時は道路工夫/少年兵と老年兵
結婚は下士官になってから/「タヒチに行ける」が勧誘文句
認識票を持たない外人部隊兵/外人部隊の砦
司令官はフランス軍大佐/外人部隊の銃剣術
自給自足できる外人部隊/サハラ中隊の美しい制服
トランペットがラッパ代り/外人部隊の軍歌/名作のなかの外人部隊
退役者の「その後・・・」/女で脱走する外人部隊兵
外人部隊の編成と戦力/外人部隊の将校
世界中から集まる外人部隊志願者/外人部隊の入隊方法
今日の外人部隊の配置