『新アジア漫遊』
大村次郷
朝日文庫(朝日新聞社)、 1994年発行
ISBN4−02−260795−5
《著者紹介》 大村次郷 (おおむら・つぐさと)
1941年、新京に生まれる。多摩美大付属多摩芸術学園写真科、
青山学院大学卒業。写真家、濱谷浩氏に師事する。
著書に『アジア食文化の旅』(朝日文庫)、『聖なるカトマンズ』(山と渓谷社)、
『地下につくられた町・カッパドキア』『龍を追う旅』(ともに福音館書店)。
NHKドキュメンタリー番組「シルクロード」、「大黄河」「韓国古寺巡礼」などの
スチールを担当。写真集に『シルクロード』『大黄河』(ともに日本放送出版会)ほか。
(同書紹介文より)
アジアは民族・言語・宗教など複雑に入り混じり、この複雑な多彩さがまたアジアの魅力であろう。しかしまた、このアジア各国、しかもメコン圏諸国を含めた韓国から中東までの広いアジアに散らばる図像(イメージ)を拾い集め紡いで見ると、時空を越えたアジア文化が見えてくることを、この著者は示してくれる。アジアの町の中で見かける力車、市場、龍、蛇、象、魔除けなどなど、左記のような31の図像(イメージ)が、本書で取り上げられている。著者は、よくもまあ、これだけの図像を烈しい好奇心で、しかも複数の土地から見つけてきたものだと驚いてしまう。
本業が写真家のため、豊富なカラー写真が掲載されているが、それだけでなく、アジア各地の情報や関連文化知識もぎっしりの本だ。(参考文献も数多くしっかり紹介されているのが嬉しい)
象、蛇、猿、闘鶏、バンコクでの燕の巣の看板、中国での門神、寺院などに現れる龍やナーガの図像など、確かにアジアで見かける図像ではあるが、大抵の人はちょっとは面白いなと思ったとしてもそんなに気にかけずに見過ごしてしまっているのではなかろうか? 今後アジアをこのように深く見て歩くと、きっと旅ももっと楽しくなりそうで、またもっといろんなことを知りたくなり、新しい発見の喜びが味わえるだろう。
本書で取り上げられている地も、「新アジア漫遊」ということで広くアジア各地に広がるが、メコン圏地域も少なくない。カンボジアのアンコールワット、アンコールトム、ラオスのワット・プー、ミャンマーのパガン、バンコクのジム・トンプソンの家、広州の清平農副産物市場、ラオスのルアンパバーンなどだ。
力車の話も『人力車』(斎藤俊彦、クオリ、1979年)、『ザンジバルの娘子軍』(白石顕二、冬樹社、1981年)の興味深い話が紹介されていて面白い。またアラビアの乳香や、泉州の海外交通史博物館に展示されている北宋時代の沈没船から見つかった乳香の話もお薦めだ。著者は、あらゆることに詳しいが、その広い行動範囲から古代の東西交易にも大変精通している。
実は、”マレー半島に残る東西交易史の跡を追う”というテーマで、この著者に何日もその取材旅行に同行する機会に恵まれたが、そのときにもいろんな為になる話をお聞きした。本書のあとがきで記されている「簡単に見て分かった気にならないで、とにかくアジアを見続ける事が大事だ」ということを、しっかり実践されている。今年(2000年)6月より、集英社から同氏の「アジアをゆく」シリーズが順次、刊行されているが、こちらも広くアジアの地域と文化に関心をお持ちの方には、お薦めの書籍シリーズである。