朝日新聞夕刊記事 1993年11月18日   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           1993年(平成5年)11月18日 木曜 朝日新聞(夕刊)

  タイ米入港  抗議・不安よぎる「自由化」

       

 

    戦後最悪の凶作によるコメ不足を補う外国産米の緊急輸入第1船が18日朝、横浜港の国際埠頭に

  入港し、荷揚げ作業が始まった。

 

  タイ産の加工用精米7千トンを積んだ、タンジュン・ピナン。タイ出港前に採取されたサンプルは、厚生

  省の事前検査で、食品衛生上問題なしとされているが、到着したコメについても同じ検査が行われる。

  荷揚げ作業は数日続く見込み。

 

  第2船は19日に神戸に入港する予定で、次いで博多港、名古屋港と相次いでタイ米が到着する。今回

  の7千トンを含め、年明けまでにタイのほかアメリカ、中国から加工用20万トンが輸入される予定。

 

 農業団体、船で海上デモ     「背に腹は」と加工業者

 

  タイ米7千トンを積んだ緊急輸入第1船。18日朝の横浜港で、海上デモをする農業団体の人たちはシ

  ュプレヒコールをあげながら、複雑な思いで黒い船体を見つめた。生産地では「市場開放につながるの

  では」と、コメ農家が警戒感をあらわにし、消費者団体からは「残留農薬の安全性は?」と疑問の声も

  出ている。一方、凶作のあおりで原料不足に悩んでいた米加工業者は、品質に不安を示しながらも「

  背に腹は代えられない」。輸入大国日本に新たに加わった輸入産品コメをめぐる多様な声は、「場当た  り農政」の矛盾をそのまま表しているようだ。

 

     ■デモ

  2隻の海上デモ船には、全国農協青年組織協議会(押川修一郎委員長)や全国農協婦人組織協議会

  (竹部喜代子会長)などのメンバー約50人が乗り込んだ。

 

  「(デモは)緊急輸入を阻止するのが目的ではない。国内に生産能力があるのに備蓄をせず、緊急輸入

  せざるをえない状態にした国の農政への怒りを示したいんだ」。ある参加者はそう語った。

 

  海上デモ終了後、押川委員長や竹部会長、日本消費者連盟の水原博子事務局長ら5団体の代表が、

  神奈川県庁で記者会見した。

 

  「緊急輸入が口火となってなしくずしにコメ市場開放につながるならば、国民に食糧を安定供給するとい

  う独立国家の基本的責任を放棄することを意味する」。声明文を読み上げる押川委員長の声には、悔  しさがにじんでいた。

 

  この日の朝から東京・日比谷野外音楽堂で開かれた全国消費者大会では「食料の自立と安全」を求め  る特別決議が採択された。緊急輸入について、「ポストハーベスト農業への不安は解消されていない」

  として、安全性の確保に万全を期すよう求めているほか、コメの国際価格が高騰して開発途上国の生

  活に打撃を与えることを指摘し、国内自給体制の確立、コメの輸入自由化反対を表明している。

 

     ■農家

  生産地でも不信の声があがった。「コメの輸入は習慣化するのではないか。今回限りと国は言うが、信  用できない。『自由化』したら家族で食べる分を作るだけだ」と、岩手県気仙郡三陸町の橋本徳光さん  (34)。

 

  陸中海岸の沿岸で「あきたこまち」を約1ヘクタール作付けしているが、収穫は、今年の冷害で皆無に

  等しい計150キロだった。

 

  コシヒカリの産地、新潟県南魚沼郡六日町の若手農家がつくる「コシヒカリ共和国」の副大統領で専業

  農家の島田徳重さん(43)は「これまで減反を繰り返しておいて、たった1年の冷害で輸入するなんて、

  非常に不愉快だね」と話す。

 

  島田さんの約3ヘクタールの水田は、平年の9割ほどの作況。2割から3割減った人が多い中で、「悪く

  はなかった」。トップブランド「魚沼米」の自信もある。だが、「国内の農業を考えれば、市場開放の前に

  国際競争力をつけられるよう、は場整備などを進めるのが先だ」とクギを刺す。

 

  山形県の庄内地方で、他の農家からの受託分も含め約11ヘクタールの水田を耕作する斎藤一秋さ

  ん(25)=東田川郡立川町肝煎=は、「緊急輸入を機に輸入自由化の方向に動くのではないか」と懸

  念しながら、「政治家は、コメは一粒たりとも輸入はしないと繰り返していたはずだ。だまされた思いだ

  」と話す。

 

    ■加工業者

  あられやせんべいの製造業者などで組織する全国米菓工業組合(東京)では、12月分の原料供給量

  のうち、うるち米では100%が、もち米では50%がタイの長粒米になる見込み。

 

  組合の幹部によると、タイの長粒米を今回のように大量に使った経験はない、という。

 

  「これから研究しないと、どういう味になるかは全くわからない。いずれにせよ、国内産米を使うのにこ

  したことはない。企業によっては、国内産米を何とか手に入れて、混ぜる割合を高めようとするところ

  も出てくるだろう」

 

  タイ長粒米を原料にした米菓は、年内にも次々と店頭に並ぶことになる。

 

  「草加せんべい」大手の浜坂直良さん(70)は、「国産の原料米確保が難しい中では背に腹は代えら

  れない」としながらも、「外米をどれだけブレンドすれば、どの程度の品質のせんべいができるのか、

  はっきりいってわからない」と話している。

 

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  という。