フォトジャーナル  文・写真:youme    「CAMBO.DEAR(親愛なるカンボジア) 本文へジャンプ
        

           第1回 The Life of a Cambodian family
                   画家 スバイ・ケン(Svay Ken)氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                        (写真上:スバイ・ケン氏 2001年8月)

 スバイ・ケン氏を知ってから日はまだ浅い。

 昨年(2001年)5月、プノンペンを訪れていた時、友人たちも偶然プノンペンに来ていた。彼らとは、1999年から2000年にかけてプノンペンで暮らした時からの付き合いで、滞在当時から入れこんでいる画家がいると言うので、同伴する事にした。

 因みに、カンボジアではマンゴーの事をスバイと言うので、彼らはケン氏の事を『マンゴー・ケン』と呼んだりもする。

 プノンペンの中心に位置するワット・プノン近くにあるThe New Art Galleryは、カンボジアではよくある木造平屋の作りで、青地に白の手書きで看板がかかっている。入り口を入ると、靴を脱ぐ必要もない土間で、ここがケン氏のギャラリー兼アトリエとなっている。壁には一面に作品が飾られ、何とも言えない味わい深い作品の数々には、カンボジアの歴史を背景にケン氏とケン氏の奥さんの物語りが描かれていた。

 不思議に作品とケン氏の人柄に惹かれ、それ以降、プノンペンに行く時は必ずケン氏のもとを訪問する様になった。

 ケン氏の画家歴はユニークで、全くの独学で60歳になってから絵を始めたと言う。

 (写真上:売れた絵にサインをするケン氏)

 

 『何故、始めたのですか?』と言う問いに、

『お金が欲しかったから』と言う答えが返って来た。

 
ホテル、レ・ロワイヤルで30年間ウェイターをしていたケン氏。定年が近づき、家族を養うのにどうしたものかと途方にくれていた。色々と考えあぐね、その結果出た答えが絵を描く事だったと言う。絵を始めた当時、道具を買うのに2.50ドル(約300円)しか持ち合わせがなく、絵の具の合わせ方も分からず、どうやったら絵が描けるのか見当もつかなかったそうだ。

 どう考えたら、60歳にして家族を養う為に画家になると言う案に辿りつくのかも、とても不思議に思えるが、そう考えられる事自体、芸術的センスが知らずのうちに身についていたのかも知れない。

 (写真右上:これが私の家族ですと一人一人説明してくれた。)

 

  さて、そうして始まったケン氏第2の人生に転機が訪れる。彼の作品に理解を示す人物が現われた。1994年の事だった。この理解者が、彼に新しいイーゼルと筆と絵の具を買うのに200ドルを投資し、展覧会の段取りをした。それを機に、ケン氏の名が知られる様になる。

 しかし、画家としての人生が軌道に乗ってから間もなくした20002月、ケン氏を不幸が襲った。最愛の妻、ティス・ユンさんが亡くなった。

 絵を描く心の支えを失った彼だったが、このユンさんと歩んだ記録を書き綴ると言う事に力を注いだ。それが"The life of a Cambodian family"で、昨年8月、その記録の物語と絵を合わせた大個展がプノンペン市内のReyumGallery(St. 178)で開催された。

  奇しくもプノンペンに居あわせ、ギャラリーの前を偶然に通ってこの展示を見てから、絵を譲ってもらうためにケン氏のアトリエを訪ねた。

 どれもこれもと迷いながら、最終的にカンボジアの結婚式の絵を買う事にした。この絵には、断髪の儀式が描かれている。

「僕の絵はあんまりお勧め出来ないよ」と、ご本人が全く売り込む気がないが、埃をはらって、新聞紙に包んでくれた。

 この時、あまり体の具合が良くないと聞いていたが、昨年の暮れからプノンペンを訪れていた際にもケン氏を訪ると、驚いた事に今まであった過去の作品が無くなって、新しい作品に変わっていた。聞くと『イタリア人のお金持ちが全て買って行った』と言う。

 そんな訳で、彼のギャラリーはガランとしていたが、イーゼルには描きかけのキャンパスが置かれていた。

 プノンペンをこうしてしばしば訪ねているけれども、人々の生活の変化の早さに驚かされる。そして、ケン氏もその驚きの対象となっている。 

(写真左:ケン氏と作品)

 

 今、我が家にはケン氏の絵1点と共にThe life of a Cambodian familyの図録がある。この図録にある117番目の最後の絵には、葬儀の場で花に囲まれた奥さんの写真に向かってケン氏が手を合わせている模様が描かれている。描き始めて10年。1941年から現在までのお話しが絵と共にこの一冊に収められている。

  カンボジアの友人は、このケン氏の絵的センスが分からないと首を傾げる。どこか幼稚だと指摘するのだが、体に染みついた芸術的センスと自身の体験に基づき描かれた絵は、何とも味わい深い。そして、ケン氏の作品の根強いファンは多く、ニューヨークの近代美術館や第1回福岡アジア美術トリエンナーレ1999(第5回アジア美術展)で作品展示をしている他、ギャラリーを訪れ、絵を買い取って行く収集家もいる程である。
 

   (写真左:新作に取り組むケン氏)

  現在、ケン氏は過去の作品が無くなったギャラリーを再び埋め尽くす勢いで、描き続けている。人生を輝かせる秘訣は決して止まらない事だと誰かが言っていたが、新しい作品に取り組みながら始終笑顔が絶えなかったのが印象深かった。



         2002年5月     (C)youme. 2002 All rights reserved.